以下の記事でもお知らせしたが、NHKでは2月19日(水)〜21日(金)の3日間、二子玉川のiTSCOMスタジオ&ホールに於いて、8Kクラシック番組『いまよみがえる伝説のクラシック名演奏』のパブリックビューイングを開催した。

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 StereoSound ONLINEでは、初日(19日)に会場にお邪魔してイベントの様子を取材してきた。当日の上映プログラムは、1979年9月にウィーン国立歌劇場で行なわれた『レナード・バーンスタイン指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団ほか ベートーベン「交響曲第9番・合唱付き」』だ。

画像: 上映される8K/22.2chの素材や注目点を解説する麻倉さん

上映される8K/22.2chの素材や注目点を解説する麻倉さん

 当日上映された8K素材は、ドイツにある大手プロダクションが所有している、カラヤン、バーンスタイン、ベーム、クライバーなど、20世紀の巨匠たちの名演奏を収録した35mmマスター・ネガから製作したもの。

 これらのフィルムはマイナス4度の環境で冷凍保管されてきたもので、今回NHKではそれらの貴重なフィルムを8Kの超高精細映像でアーカイブすべく、綿密な打ち合わせを行なってきたという。

 解凍したフィルムは、次に13度の環境に1週間馴染ませ、そこから8Kスキャンを行なった。ちなみにこれまでNHKの8K放送では『2001年 宇宙の旅』や『マイ・フェア・レディ』など70mmフィルムをスキャンした番組を放送したことはあるが、35mmフィルムからの8Kスキャンは(世界でも)初めてだったという。

 今回は新しい8Kスキャナーをドイツに持ち込んでいるが、これは35mmフィルム用に新たに開発したもので、NHKとしても35mmフィルムを8Kにスキャンしたらどんな映像が再現されるのか、検証したいという狙いもあったようだ。

 ちなみに35mmフィルムからの8Kスキャンにはひとコマ3秒かかるとかで、1秒のフィルム映像をスキャンするには24コマ×3秒=72秒が必要だ。つまりこのスピードでは休みなしに取り込んだとしても、1時間番組を8K化するのに72時間を要することになる。

 実際にはそのスキャンデータを元に傷消しや揺れ補正、カレーコレクション(色補正)も行われているわけで、NHKとしてひじょうに力の入ったコンテンツであることがよくわかる。

 また音声は22.2chにリマスターされているが、こちらはマルチトラック録音(13ch)された素材からリミックスしている。初日に作品解説を担当してくれた麻倉怜士さんよると、そのリミックスでもウィーン国立歌劇場の広さや壁の素材などをシミュレーションして、響きを加えているそうだ。つまり今回のサウンドは、まさに1979年の演奏を再現したものということだ。

画像: 4KのDLPプロジェクターを4台使い、スクリーン上で8K映像を再現する

4KのDLPプロジェクターを4台使い、スクリーン上で8K映像を再現する

 「この番組は本当に貴重です。そもそもこれだけの演奏が35mmフィルムで撮影されていたことが素晴らしい。ビデオ撮影ではオリジナル以上の解像度にはできませんが、フィルムなら8Kスキャンすることで、たっぷりした情報量が再現できます。

 サラウンドもきちんと理由があっての22.2chで、まさに最新の技術を導入したことで、これまでこの演奏から誰も観ることができなかった映像、聴くことができなかった音を蘇らせています。バーンスタインも“そんなこと聞いてない”と言うかもしれません」と麻倉さんも絶賛だ。

 「今日のコンテンツについては8Kならではの見所が3つあります。まずはバーンスタイの目です。目の中にスポットが映り込む細かさはもちろん、その目力でオーケストラの楽団に意思を伝えている。目でも指揮をしていることがわかります。

 次は飛び散る汗。バーンスタインは飛び跳ねるように動く指揮者ですが、曲が進むにつれて汗をかいてきます。それが体の動きに合わせて飛び散る様が8Kではひじょうによく見えます。とても躍動感があります。

 そして最後がHDR(ハイ・ダイナミックレンジ)ならではの階調感。バーンスタインや楽団員のシャツや楽譜が白トビしないできちんと再現できていますし、ティンパニなどの楽器も艶やかです。

 まさに絵と音の至福とはこのことで、しかも演奏そのものもいい。これをぜひ今日は実感していっていただきたいと思います」という解説に続いて番組上映がスタートした。

 今回の上映環境は、アストロデザインのSSDレコーダーに保存した非圧縮素材を再生し、パナソニックの4K DLPプロジェクター4台を使って350インチスクリーンに投写している。サラウンドはコーダオーディオのアクティブスピーカーを、22.2chの規定通りの位置に配置している。

画像: スピーカーはドイツ、コーダオーディオのアクティブ型が使われていた

スピーカーはドイツ、コーダオーディオのアクティブ型が使われていた

 4K8Kのデモ映像に続いて本編がスタートした。フィルムのグレイン(粒状性)が絶妙に残った映像で、これまでの70mmフィルムをスキャンした映画作品とも印象が違う。ビデオ撮影された8Kを見慣れた人にはちょっと甘く感じられるかもしれないが、じっくり観ていると輪郭の再現が素直で、微細な情報もしっかり残っていることが分かる。

 楽団員の黒い服の質感、表面の光沢、管楽器の輝きなど素材の表現も美しい。複数のバイオリンで、年代の違いからか、楽器表面の色が微妙に異なっている点もしっかり識別できた。

 それに加えて麻倉さんの解説にあった通り、バーンスタインのアップでの表情がよく見えてきて、目力に圧倒される。これは実際のコンサート会場でも観ることができないカットだが、いかに指揮者が楽団を掌握しているのか、タクトだけでなく全身を使って音を紡ぎ出しているかがよく分かった。

 しかもバーンスタインが、ここまで嬉しそう、楽しそうに指揮をしていたことがわかると、この演奏は彼にとっても充分満足のいく出来だったのだと納得させられてしまう。

 肝心のサウンドも自然な包囲感を持って再現される。基本的にはステージ側主体の音場で、サラウンド側からは音の反射や拍手がふわっと広がる感じがとてもいい。第四楽章のクルト・モルの独唱では声が前方から後ろに抜けて、それが後方で反響しながら広がっていく様子もリアル。8K映像を引き立てる、絶妙なバランスを持った音だった。

 「この頃、バーンスタインとウィーン・フィルはとてもいい関係で、お互いをリスペクトしていました。8K映像からはその信頼感がよく伝わってきました。本当に色々な感動が味わえるコンテンツです。

 私はこの演奏はCDなどでもさんざん聴いてきましたし、8K映像もNHKで拝見していましたが、今日は格段に素晴らしかった。これまでで一番感動しました」と麻倉さんも感動を隠せない様子だった。

 当日参加していたお客さんにも感想を聞いてみたところ、「感動しました。絵も音も素晴らしかった」「麻倉さんが話していたバーンスタインの目の光や汗がよくわかった」「演奏がすばらしいですね」とみんなとても満足した様子だった。

 NHKでは今後も様々なコンテンツでの8Kパブリックビューイングを企画しているそうなので、オーディオビジュアルファンは、ぜひ一度この映像とサウンドに触れてみていただきたい。(取材・文:泉 哲也)

画像: 今日の上映はこれまでで一番感動しました、と麻倉さん

今日の上映はこれまでで一番感動しました、と麻倉さん

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