ステレオサウンド社が積極的に推進する「Stereo Soundリファレンスレコード」シリーズの中の〈オーディオ名盤コレクション〉は、シングルレイヤーSACD+CDの2枚組の他に、BD-ROMによる11.2MHzのパッケージもリリースしている。2.8MHzのSACDと比べてその情報量は圧倒的で、再生環境があれば、より高品位な音楽鑑賞が可能となる。これらコンテンツは、英国デッカに保管されているオリジナル・アナログマスターテープをダイレクトに11.2MHz DSD信号に変換したもので、現在望み得る最高のマスター音源といえよう。今回は2019年秋に発売された4タイトルを取り上げる。

 今回は、DELAのディスクドライブD100を介してフィダータのミュージックサーバー/HFAS1XS20に取り込んだ音声ファイルを、エソテリックのSACD/CDプレーヤー、グランディオーソK1のUSB入力に接続して再生している。くれぐれも申し添えたいのは、ここで紹介するBD-ROMディスクは『ブルーレイオーディオ』盤ではないため、BDプレーヤーでの直接再生はできない。BD-ROM対応のディスクドライブ経由で音声データを、パソコン内やミュージックサーバー(NAS)など、なんらかの媒体にコピーし、DSD11.2MHzに対応するDAC、プレーヤーで再生する形となる。

 4作を聴いて総じて言えることは、立体的に広いステレオイメージ、とりわけ奥行方向に深い階層感と見通しのよさが格別なこと。それぞれ収録で使われたホールの空気感や残響感がすこぶるリアルに感じられるのだ。それが11.2MHz DSDフォーマットならではのプレゼンスの豊かさといっていいだろう。加えて楽器の質感のなめらかさや響きの瑞々しさ、ダイナミックレンジのスムーズな展開、ヴィヴィッドな躍動感や緩急、ローレベルや微かなニュアンスの描写の確かさなど、オーディオ的な要素がきわめて自然で臨場感に溢れている点が素晴らしい。こうした点もまた、はるばる英国までマスター音源を求めた成果である。

 それぞれの音源は録音名盤として名高い作品ばかりだが、たとえ同じ内容の最良のコンディションのLPに辿り着いたとしても、ここで聴くことができたようなノイズレスと美音がキープできている確率は、かなり低いと思われる。そうした点からは、スタジオマスターとほぼ同等のクォリティといってよいこれらハイレゾ音源の価値を、私はかけがえのないものと思うのである。

圧巻の11.2MHz DSD これぞ究極のハイレゾだ!

 では、録音年代の古い順に4タイトルのサウンドを分析してみよう。ポール・パレー指揮デトロイト響による1959年録音のマーキュリーの名盤『ベルリオーズ:幻想交響曲』は、ステレオ録音の開始直後という古さもあってか、さすがにヒスノイズが目立つのは仕方ない。むしろ「〜マスターテープに起因するノイズカットおよびドロップアウト等の補正処理を行なっておりません」(帯の解説より)と本シリーズが謳っている偽りのない証拠である。

 ややソリッドな響きではあるが、細部の立体的かつ透徹とした見通しは、すこぶる清々しい。コールアングレ(イングリッシュホルン)とオーボエが牧歌的フレーズを交歓する第三楽章は、緻密な描写と奥行感が白眉。そこに絡むピチカートによる弦のアクセントが優雅な雰囲気を醸し出す。続く第四楽章から第五楽章にかけてが、本楽曲のいわば醍醐味だ。ティンパニを中心としたリズムと低音部を司るコントラバスやチューバ等のハーモニーが、ひたすらに勇壮かつ雄大に響く。このローエンドの分厚さは堪らない。

画像1: 名盤ソフト 聴きどころ紹介10/High Resolution MASTER SOUND   Stereo Sound REFERENCE RECORD

High Resolution MASTER SOUND/DSD11.2MHzデータ収録BD-ROM

『ベルリオーズ:幻想交響曲/ポール・パレー指揮 デトロイト交響楽団』
(ユニバーサル ミュージック/ステレオサウンドSSHRB-007)¥14,000+税

●初出:1960年マーキュリー・レーベル
●録音:1959年11月28日 デトロイト Cass Technical High school
●Recording Director: Wilma Cozart
●Musical Supervisor: Harold Lawrence
●Chief Engineer and Technical Supervisor: C. Robert Fine
●Associate Engineer: Robert Eberenz
●Mastering Engineers:Jonathan Stokes & Neil Hutchinson(Classic Sound Ltd UK)

   ●ご購入はこちら→https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/rs_ss_hrm/3187

 同じマーキュリー盤の61年録音『ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番』も、ヒスノイズは聴こえるものの、ウェストレックス社製35mmフィルムレコーダーによる広ダイナミックレンジ/広周波数特性ならではのポテンシャルの高さがその瑕疵を補ってあまりある。等身大近くに感じるコンサートグランドピアノのフォルムの迫力も素晴らしく、第一楽章で軽やかに跳躍し、天にも昇るような煌めくフレージングが実にロマンチック。バイロン・ジャニスのピアノはまさしく生きているようで、あらゆる高度なテクニックが繰り出される第三楽章では、オーケストラを従えて実に大胆な緩急を繰り出してくる。

『ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番/バイロン・ジャニス(ピアノ)、アンタル・ドラティ指揮 ロンドン交響楽団』
(ユニバーサルミュージック/ステレオサウンドSSHRB-008)¥14,000+税

●初出:1962年マーキュリー・レーベル
●録音: 1961年6月16、17日 ロンドン郊外、ワトフォード・タウン・ホール
●Recording Director: Wilma Cozart
●Musical Supervisor: Harold Lawrence
●Chief Engineer and Technical Supervisor: C. Robert Fine
●Associate Engineer: Robert Eberenz
●Mastering Engineers:Jonathan Stokes & Neil Hutchinson(Classic Sound Ltd UK)

画像2: 名盤ソフト 聴きどころ紹介10/High Resolution MASTER SOUND   Stereo Sound REFERENCE RECORD

High Resolution MASTER SOUND/DSD11.2MHzデータ収録BD-ROM

   ●ご購入はこちら→https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/rs_ss_hrm/3188

 デッカ『アルベニス/スペイン組曲』も、きわめて鮮烈なサウンドだ。67年11月録音の本盤は、名エンジニア/ケネス・ウィルキンソンの卓越した手腕によって、その眩しいほどのカラフルなリズムの応酬がキメ細やかに収録されている。ラテン系作曲家ならではの闊達な高音を炸裂させるパーカッションが凄い。カスタネット等が発するドライな響きをオケは情熱的なアンサンブルで包み、DSDならではの懐の深さがその鋭いアタックと憂いを帯びた余韻を空間にちりばめていく。色彩感豊かなアンサンブル/オーケストレーションが広々と展開する様は圧巻のひと言だ。

画像3: 名盤ソフト 聴きどころ紹介10/High Resolution MASTER SOUND   Stereo Sound REFERENCE RECORD

High Resolution MASTER SOUND/DSD11.2MHzデータ収録BD-ROM

『アルベニス:スペイン組曲(ブルゴス編)/ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴス指揮 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団』
(ユニバーサルミュージック/ステレオサウンドSSHRB-009)¥14,000+税

●初出:1968年デッカ・レーベル
●録音:1967年11月1、2日 ロンドン、キングスウェイ・ホール
●Recording Producer:John Mordler
●Balance Engineer:Kenneth Wilkinson
●Mastering Engineers:Jonathan Stokes & Neil Hutchinson(Classic Sound Ltd UK)

   ●ご購入はこちら→https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/rs_ss_hrm/3189

 19年秋発売4タイトル中のイチオシは、78年3月録音のロンドン(デッカ)盤『マーラー:交響曲第3番』だ。ズービン・メータ指揮ロス・フィルによる迫真的サウンドは、エンジニア/ジェームス・ロックの手腕で、全六楽章におよぶ大作が文字通り重厚長大なスペクタキュラーとしてリスニングルームに出現する。その尋常ではない奥行と高さにリスナーは怖れおののくだろう。第一楽章冒頭、ホルンの重奏による主題がステージ奥の方から響き、ティンパニ等の打楽器群が轟かす一撃は、オーディオシステムに対する挑戦状のよう。威風堂々とした力強いハーモニーは、金管群の鋭い響きを重ねて眼前にそびえ立つかのようだ。同じ主題が暗示される第六楽章は、それとは対照的に神々しく厳か。実に静謐な雰囲気に満ちている。

『マーラー:交響曲第3番/ズービン・メータ指揮 ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団、ほか』
(ユニバーサルミュージック/ステレオサウンドSSHRB-0010)¥16,000+税

●初出:1979年デッカ・レーベル
●録音:1978年3月27〜31日 ロサンゼルス、ロイス・ホール
●Recording Producer: Ray Minshull
●Balance Engineer: James Lock, Simon Eadon
●Mastering Engineers:Jonathan Stokes & Neil Hutchinson(Classic Sound Ltd UK)

画像4: 名盤ソフト 聴きどころ紹介10/High Resolution MASTER SOUND   Stereo Sound REFERENCE RECORD

High Resolution MASTER SOUND/DSD11.2MHzデータ収録BD-ROM

   ●ご購入はこちら→https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/rs_ss_hrm/3190

 こんなにリアリスティックな演奏が手塩に掛けてきたわがオーディオシステムで再現できるとは、いやはや凄い時代になったものだ。

画像5: 名盤ソフト 聴きどころ紹介10/High Resolution MASTER SOUND   Stereo Sound REFERENCE RECORD

   ●問合せ先:㈱ステレオサウンド 通販専用ダイヤル03(5716)3239
                      (受付時間:9:30-18:00 土日祝日を除く)

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