以前から今井美樹が憧れ、慕っていた荒井由実/松任谷由実(ユーミン)の楽曲をカバーしたアルバム、『Dialogue』のCDがリリースされて早6年。この企画が持ち込まれた時、ユーミンへの思いが強すぎて、彼女は戸惑い、躊躇したという。ちょうどその頃、夫である布袋寅泰とともにロンドンへの移住が決まり、50歳という節目を迎えたこともあり、「このタイミングであれば……」と、制作を決意したのだそう。

 レコーディングはロンドンで行なわれ、編曲、サウンドプロデュースは、ジャミロクワイやビョークを手がけてきたサイモン・ヘイルが担当。集まったミュージシャンもおのずと全員外国人となり、サイモンも含めてユーミンのことを何も知らない。

 まず彼女が手を付けた作業は、ユーミンの作品の本質を解釈し、その魅力を彼らに伝えること。そこには布袋寅泰も加わり、事実上、サイモン、布袋、今井、三人による共同プロデュースとなった。選曲は今井自身が行なっているが、彼女がもっとも影響を受けたという1987年以前の楽曲を対象としている。

 個性が強く、独特の歌声が脳裏にしみこんでいるユーミンの楽曲を、今井美樹がいかに受け入れて、本人のメッセージとして歌い上げるのか、正直、期待半分、不安半分だったが、根っからの今井美樹のファンとしては、さっそく購入。

 「卒業写真」、「中央フリーウェイ」、「あの日にかえりたい」と、ユーミンの定番ともいえるお馴染みの曲を聴いていくと、今井美樹の天性とも言える澄んだ伸びのある歌声がスッと心にしみ入り、なんとも心地いい。これだけで充分に満足したのを覚えている。

既発CDとは印象が大きく異なる
躍動感に富んだ音が実に新鮮

 この『Dialogue』がステレオサウンド社から、SACDとアナログレコードとして発売された。SACDは音質にこだわったシングルレイヤー仕様、アナログレコードは45回転重量盤の2枚組という豪華仕様となっている。

 ユニバーサル・ミュージックが管理するデジタルマスター音源は共通だが、今回はメディアごとに最終的な音づくりを任されたマスタリング・エンジニアが、それぞれの器の特質を見据え、細心の注意を払いながら、最終的な音に仕上げているという。

 SACDのマスタリング(音調整)はソニー・ミュージックスタジオの鈴木浩二氏、そしてアナログレコードについては日本コロムビアのチーフエンジニアとして活躍中の武沢茂氏がマスタリングとカッティングを担当している。

 デジタルマスターは基本96kHz/24ビットPCM音源。ただ「中央フリーウェイ」、「ようこそ輝く時間へ」の2曲についてはマスターが44.1kHz/24ビットPCM音源のため、それぞれ独自の手法でアップコンバート処理後、マスタリング作業が行なわれた。

 同じマスター音源を使って、その表現力はメディアの違いでどのくらい変わるのだろうか。興味津々でまずSACDを聴いたが、既発のCDとはだいぶ印象が違う。艶のある透き通った歌声はイメージと変わらないが、その声の出方、ベースの伸び、そして空間の拡がりと、そのサウンドは躍動感に富んで、開放感に溢れている。

 例えば私の好みの1曲「青春のリグレット」。アコースティックギター、ドラムス、ピアノ、パーカッションと、シンプルな演奏とともに今井美樹の澄んだ歌声が拡がっていく。各楽器から放たれる音の響きの粒子が細かく、ストレスなく空間に浸透し、消えていく感じが実に新鮮だ。

 語りかけるようなヴォーカルはハードセンターではなく、ステージの演奏に無理なく馴染み、まるで目の前の空間全体が歌っているかのよう。その様子は力みがなく、和やかだ。思わずにやけてしまいそうで、そんな自分を抑えるのに苦労してしまうほど、楽しい。

 SACDがここまでの表現力を持つとなると、おのずとアナログレコードへの期待が高まる。ヴォーカルの定位、ニュアンス、空間の大きさ、音そのもののテイストと、聴こえ方としてはSACDに近い。

 目の前のスピーカーが鳴っているように思えないほどの音離れのよさや、空間に放出される響きの豊かさ、緻密さ、そして団子状になることなく、軽やかに伸びる低音もSACDに通じるものがある。

 ただ声の実在感、演奏の生々しさ、空間のリアリティと、アナログレコードならでは表現力を感じるのも事実だ。たとえば、いまから30年以上も前、JR東海のCMとして流れていた「シンデレラ・エクスプレス」。

 遠距離で暮らす恋人たちの週末の出会いと別れをモチーフとした歌詞が大きな話題となったが、今回のアレンジはその内容に共鳴したメランコリックな仕上がり。それを今井美樹は自分なりに理解し、オリジナル曲の雰囲気を壊すことなく、歌い上げる。

 遠距離で暮らす恋人たちの週末の出会いと別れをモチーフとした歌詞が大きな話題となったが、今回のアレンジはその内容に共鳴したメランコリックな仕上がり。それを今井美樹は自分なりに理解し、オリジナル曲の雰囲気を壊すことなく、歌い上げる。

 今井美樹のファンはもとより、女性ヴォーカル好きのオーディオファンの方には、ぜひ、このSACDとアナログレコードの音を体験していただきたい。

画像: 名盤ソフト 聴きどころ紹介9/『Dialogue Miki Imai Sings Yuming Classics/今井美樹』
Stereo Sound REFERENCE RECORD

アナログレコード(ユニバーサル・ミュージック/ステレオサウンドSSAR-041〜042)¥9,000+税
●カッティング エンジニア:武沢茂●仕様:45回転180g重量盤2枚組LP

シングルレイヤーSACD(ユニバーサル・ミュージック/ステレオサウンドSSMS-027)¥4,500+税
●マスタリング・エンジニア:鈴木浩二

Dialogue
Miki Imai Sings Yuming Classics/今井美樹

▶収録曲
① 卒業写真 
② 中央フリーウェイ 
③ あの日にかえりたい 
④ 人魚になりたい 
⑤ やさしさに包まれたなら   
⑥ シンデレラ・エクスプレス
⑦ ようこそ輝く時間へ
⑧ 霧雨で見えない
⑨ 青春のリグレット
⑩ 青いエアメイル
⑪ 手のひらの東京タワー
⑫ 私を忘れる頃

※アナログレコードの収録曲は次の通り。
Side A ①〜③、Side B ④〜⑥、Side C ⑦〜⑨、Side D ⑩〜⑫を収録
※トラック②、⑦は44.1kHz/16ビット/PCMマスター。それ以外は96kHz/24ビット/PCMマスター

●ご購入はこちら↓
  アナログレコード     https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/rs_ss_arc/3181
  シングルレイヤーSACD https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/3169

●問合せ先:㈱ステレオサウンド 通販専用ダイヤル03(5716)3239(受付時間:9:30-18:00 土日祝日を除く)

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