クリプトンの密閉型2ウェイ機の傑作KX-5のバリエーション・モデルKX-5PXが登場した。2010年発売のオリジナル機KX-5、2015年のピアノ・フィニッシュ機KX-5Pに続く3代目モデルということになる。

 本機最大の注目ポイントは、内部配線材にPCトリプルCが採用されたこと。KX-5、KX-5Pで使われていた内部配線材は音のよさで定評のあったPCOCCだが、1986年に古河電気工業から発売されたこの定番線材は2013年に製造中止に。クリプトンは終了前に大量発注してこの6年間を凌いできたが、ついに在庫が枯渇。2014年に「ポストPCOCC」を標榜して開発されたPCトリプルCを同社製スピーカーとして初採用したわけである。

 PCOCCは優れた導電特性を持つ高純度な単結晶無酸素銅(OFC)。いっぽうのPCトリプルCは20ミクロン以上の異物を取り除いた特殊なOFCでPCOCC以上の純度を誇るが、単結晶素材ではない。そこで一定角度/方向に数万回鍛造することで単結晶に近い連続した結晶構造を得て直流抵抗を下げ、信号をスムーズに流れやすくしたものだ。

 日本を代表するスピーカービルダーの匠、同社オーディオ事業部長の渡邉勝さんによると、本機5PXはウーファー用、トゥイーター用それぞれで配線材の構造を最適化する工夫を採っているという。また、この内部配線材の変更に合わせてキャビネット内部の吸音材の量と配置を変えたそうだが、アルニコ・マグネットを奢った磁気回路を搭載する17cmパルプコーン・ウーファー、砲弾型イコライザー付35mmピュアシルク・リング型トゥイーターに変更はなく、クロスオーバーネットワークもそのままだそうだ。

 またクリプトンは、このスピーカーの発売と同時にPCトリプルCを用いたスピーカーケーブルSC-HRシリーズを市場導入する。とくに興味深いのがバイワイヤリング用ケーブルのSC-HR2000。内部配線材同様、トゥイーター用とウーファー用それぞれ受け持ち帯域に合わせて芯線や構造を変えているという。

「静か」でワイドレンジ。パワーリニアリティにも優れる

 クリプトン・ラボとHiVi視聴室の両方でKX-5PXをテストしてみた。まず前者ではKX-5Pとの比較を。愛聴ハイレゾファイルを何曲か再生してみたが、5Pに比べて5PXは音の透明度が高く、ローレベルのリニアリティに優れ、いっそう静かな音に感じられた。低音の解像感も高くワイドレンジ、現代スピーカーとしての豊かな資質を強く訴求する印象だ。ふっくらとしたコントラバスの豊かな響きやチェロのあまやかで芳醇な音色に旧モデル5Pの魅力を実感するが、サウンドステージの天井がやや低く感じられ、比較するとすこしふるいタイプの音調に感じられるのが個人的には興味深かった。もっとも中低域が豊かな5Pの音の方が好きという方もいらっしゃるかもしれない。

 HiVi視聴室では、PCトリプルC線材を採用した他社製ケーブルと芯材にポリエチレンを用いたクリプトンSC-HR1500(HR2000ウーファー用)でシングルワイヤリング比較、その後SC-HR2000でバイワイヤリング接続時の音質を確認した。

 他社製もHR1500も同じPCトリプルC線材を使っているものだったのだが、音はかなり違う(両者ともにウーファー側に接続)。HR1500のほうが音がいっそうなめらかで、音場の広がりもスムーズで好ましい。

 しかし驚いたのはHR2000を用いたバイワイヤリング接続時の音のすばらしさだ。音圧感が上がり、トランジェント感が向上、音離れがよくなりヴォーカルがいっそうスムーズにスピーカーから飛び出してくる印象だ。バイワイヤリング接続することでウーファーの逆起電力によるトゥイーターへの悪影響が抑えられたことが、この好結果に結びついているのだろう。また、このケーブルを使って感心したのは本機のパワーリニアリティのよさ。パルシヴな音が連続するジャズのライヴソースを聴いてみたが、ボリュウムを上げていっても音質は変わらず、リニアに音の大きさだけが上がっていくのである。  

 最後にUHDブルーレイ『ロケットマン』を2chで再生してみたが、本機の位相特性のよさが活きたのだろう、スピーカーの外側にワイドに広がる雄大なステレオフォニック効果が得られた。センターにファントム定位するダイアローグの安定感も見事の一言。声の質感のよさも本機ならではの魅力だと思う。

KRIPTON
KX-5PX
¥498,000(ペア)+税

●型式:2ウェイ2スピーカー・密閉型
●使用ユニット:35mmドーム型トゥイーター、 170mmコーン型ウーファー
●クロスオーバー周波数:3.5kHz
●出力音圧レベル:87dB/W/m
●インピーダンス:6Ω
●寸法/質量:W224×H380×D319mm/11kg
●問合せ先:(株)クリプトン TEL. 03(3353)5017

   バイワイヤリング用ケーブル、SC-HR2000が同時発売

KX-5PXと同時に、内部配線として使われたスピーカーケーブル各種が発売された。特に、注目したいのは、バイワイヤリング接続を1本のケーブルで実現できるSC-HR2000(¥14,500/m+税)。KX-5PXとのペアリングにおいても相性がいいと言える。  クリプトンのオフィシャルサイトで注文すれば、下の写真のように末端処理済みのケーブルを購入可能。アンプ側は二又に、スピーカー側は四つ又に分かれているので、バイワイヤでの接続が容易に行なえる。(編集部)

画像: こちらがKX-5PXの内部配線に使われたスピーカーケーブル。トゥイーター側にはSC-HR1300(¥8,000/m+税)、ウーファー側にはSC-HR1500(¥12,000/m+税)がそれぞれ充てられており、それらの要素を合わせ、4芯構造としたのがSC-HR2000だと言える


こちらがKX-5PXの内部配線に使われたスピーカーケーブル。トゥイーター側にはSC-HR1300(¥8,000/m+税)、ウーファー側にはSC-HR1500(¥12,000/m+税)がそれぞれ充てられており、それらの要素を合わせ、4芯構造としたのがSC-HR2000だと言える

画像2: クリプトン傑作の3代目、KX-5PX登場。現代スピーカーの豊かな資質を訴求する、新世代モデル
画像: 上が四つ又、下が二又に処理されたSC-HR2000。バイワイヤリング接続はケーブルが増えるため、煩雑になるだけでなく、どうしてもコストがかかりがち。それを解決するための製品だ

上が四つ又、下が二又に処理されたSC-HR2000。バイワイヤリング接続はケーブルが増えるため、煩雑になるだけでなく、どうしてもコストがかかりがち。それを解決するための製品だ

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