現在のJポップ/ニューミュージック界隈を見渡した時、歌の上手いベテランシンガーとなると、玉置浩二が真っ先に思い浮かぶ。バンド〈安全地帯〉でデビューした彼の歌唱を初めて聴いた時、その豊かな表現力と底なしにさえ思える声量に圧倒されたことをよく覚えている。彼らのLPを私は高校生時分に購入し、当時自作したスピーカーとアンプで楽しんでいた。あの頃の純粋無垢な感動が、今回ステレオサウンド社よりリリースされた「ステレオサウンド オリジナルセレクションVol.3『安全地帯』」、「ステレオサウンド アナログレコード コレクション『安全地帯ベスト』」を聴いて鮮明に蘇ってきたのである。

 北海道・旭川市で誕生した安全地帯は、シングルヒットした「ワインレッドの心」や「恋の予感」「碧い瞳のエリス」に代表されるような玉置の表現力豊かなヴォーカルスタイルに注目が集まりがちだが、初期のアルバム全体を通して聴くと、ブリティッシュロックに通じるような奥深いダークさをはらんでいることに気づく。各メンバーが妖艶な化粧を施していたことも相まって、当時の歌謡界、ニューミュージックの中では異彩を放っていたといってもよい。いっぽうでバンドの生い立ちを辿っていくと、アメリカンロックに傾倒していた時期もあり、安全地帯の音楽には、そうした幅広い音楽性が随所に現われているのだ。

 井上陽水との共同制作も忘れられず、私が彼らに関心を持ったきっかけのひとつだ。陽水は玉置との共作にとどまらず(『ワインレッドの心』など)、〈安全地帯〉とのジョイントで86年夏に明治神宮野球場でのライヴコンサート「スターダスト・ランデヴー」を行ない、そのコラボレーションが絶賛を博した。このライヴで初披露された名曲「夏の終りのハーモニー」は、同年秋にシングルカットされている。

安全地帯の名曲たちの感動が鮮明に蘇る珠玉の2タイトル

 今回発売されたのは、30cmLPとSACD/CDハイブリッドディスクの2タイトル。前者は、メタルマスター・ダイレクトプレスによる180g重量盤で、〈安全地帯〉のスタジオ録音アルバム全14作の中から選曲された全10曲構成の収録となっている。後者は全18曲入りで、初期から中期にかけての名曲がずらりと並ぶ。内14曲が貴重なアナログマスターを使って、マージングテクノロジーズのHorusコンバーターでダイレクトにDSDトランスファー。他4曲(※)が44.1kHz/16ビットのデジタルマスター音源を日本コロムビアが独自に開発した高効率符号化マスタリング技術「ORTマスタリング」によって、96kHz/24ビットにアップコンバートした後、DSD化している。いずれもオリジナルマスターを使用していることは言うまでもない。

 なお、ここで使われたアナログマスター音源は、東京・南麻布の日本コロムビアのスタジオに持ち込まれ、ベテランエンジニアの武沢茂氏による入念な作業が行なわれたもの。スチューダーA80(4分の1インチ幅テープ・38cm/秒)、A820(2分の1インチ幅テープ・76cm/秒)と、テープの記録方式によって再生用テープレコーダーを使い分けるという凝り様にも頭が下がる。

※「朝の陽ざしに君がいて」「あの頃へ」「I Love Youからはじめよう」「メロディー」は44.1kHz/16ビットマスターを使用

画像1: 名盤ソフト 聴きどころ紹介8/『安全地帯』
Stereo Sound REFERENCE RECORD

SACD+CDハイブリッド
Stereo Sound ORIGINAL SELECTION
『安全地帯』
(ユニバーサル・ミュージック/ステレオサウンドSSMS-028)¥4,500+税
●マスタリングエンジニア:武沢茂(日本コロムビア)

【収録曲】
① To me
② ワインレッドの心
③ Friend
④ 夏の終りのハーモニー(井上陽水・安全地帯)
⑤ 夢のつづき
⑥ 恋の予感
⑦ あなたに
⑧ 悲しみにさよなら
⑨ 碧い瞳のエリス
⑩ 朝の陽ざしに君がいて
⑪ あの頃へ
⑫ 好きさ
⑬ じれったい
⑭ マスカレード
⑮ Juliet
⑯ 月に濡れたふたり
⑰ I Love Youからはじめよう
⑱ メロディー

●ご購入はこちら→ https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/3178

 さて、本盤の音質である。まずはLP。武沢氏の仕事は今回も隙がない仕上がりであることが最初の一音を聴いてわかった。鮮度が高く、S/Nが抜群によい。そして肝心の玉置のヴォーカルだ。実体感のある音像フォルムがくっきりとファントムセンターに定位し、質感はひじょうにリアル。「碧い瞳のエリス」のサビのベースは、エフェクターの効きがよくわかるし、低域のピッチが克明に聴こえる。

 SACDも基本的にはLPと同じ音調、トーンながら、S/Nはさらに良好で、伴奏が立体的に浮かび上がる。玉置の声はなおいっそうなめらかで瑞々しく響き、「悲しみにさよなら」のコーラスの広がりが実に立体的だ。

 今回、「HiVi」編集部が事前に用意してくれたオリジナルLPやCDと、ステレオサウンドの復刻盤(以下SS盤)との音質比較を、大ヒットした「恋の予感」で試してみた。オリジナルLP(『安全地帯Ⅲ〜抱きしめたい』)は、盤の最内周部のカッティングという物理的ハンディもあったのだが、ダイナミックレンジが狭く、声も伸びやかさに欠ける。アナログならではの粒立ちのよさは感じられるものの、歪みっぽさは否めなかった(この点については、発売時期による経年変化もありそうだ)。

 その点でB面トップにカッティングされたSS盤のLPは、稀代の名曲の深奥な世界観を押し広げるような広大なスケールと透明感で描いてみせた。アレンジの妙もたっぷりと堪能でき、感激である。

 さらに驚いたのは、現行CDとSS盤SACDの音の違いだ。少しザラっとしたところもありながら、柔らかくて包容力のある玉置の声がスムーズかつなめらかに再現され、まるでベルベット地を思わせる質感。それがSACDではよりリアルに感じられるのだ。これがDSDマスタリングならではの“しなやかさ”だろうか。ストリングスやリズム隊との距離感も立体的で、音場感が断然広い。

安全地帯のこの2枚は、当代の吟遊詩人・玉置浩二の歌唱の神髄が味わえる珠玉盤という印象であった。

画像2: 名盤ソフト 聴きどころ紹介8/『安全地帯』
Stereo Sound REFERENCE RECORD

アナログレコード
Stereo Sound ANALOGUE RECORD COLLECTION
『安全地帯ベスト』
(ユニバーサル・ミュージック/ステレオサウンドSSAR-040)¥8,000+税
●仕様:33 1/3回転180g重量盤LP、メタルマスター・ダイレクトプレス●カッティングエンジニア:武沢茂(日本コロムビア)

【収録曲】
Side A
① To me
② ワインレッドの心
③ Friend
④ 夏の終りのハーモニー(井上陽水・安全地帯)
⑤ 夢のつづき

Side B
① 恋の予感
② あなたに
③ 悲しみにさよなら
④ 碧い瞳のエリス
⑤ メロディー

●ご購入はこちら→https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/rs_ss_arc/3170

●問合せ先:㈱ステレオサウンド 通販専用ダイヤル03(5716)3239(受付時間:9:30-18:00 土日祝日を除く)

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