故郷を離れ、別々の時間を生きていたメンバーだったが……

 前作『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』でも、この続篇『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』でも、観たひとは“IT”(それ、ヤツ)とは何だったのかと考えるだろう。

 1989年の夏から、27年後の2016年に。“ルーザーズクラブ(負け犬クラブ)”の7人は40代になり、それぞれの人生を送っている。

 殺人ピエロ、ペニーワイズに弟をさらわれたビルは、ホラー小説家&映画脚本家として(ジェームズ・マカヴォイ)。父親から性的虐待を受けていたベヴァリーは、服飾デザイナーとして(ジェシカ・チャステイン)。おしゃべりなメガネ少年リッチーは、長じて人気コメディアンとして活躍している(ビル・ヘイダー)。

 ただひとりデリーの町に残り、ペニーワイズ再来を警戒していた黒人のマイク(イザイア・ムスタファ)は、ある事件をきっかけにITが再び動き始めたことを知り、かつての仲間たちに連絡をする。

 「ヤツがまた現れた──」。こうして負け犬クラブの面々は少年時代の約束“あいつが再び現れたら決着をつける”を守るため、勇気を振り絞って故郷の町に戻ってくるのだ。

画像: 27年ぶりに集結した“負け犬クラブ”の面々。再会の喜びに浸る間もなく、“それ”の魔の手は彼らに忍び寄る……

27年ぶりに集結した“負け犬クラブ”の面々。再会の喜びに浸る間もなく、“それ”の魔の手は彼らに忍び寄る……

画像: 上が2016年の負け犬クラブ、下が1989年の負け犬クラブ。2016年組は1989年組と密にコミュニケーションを取り、子役たちの口調や動作をトレースしたという。その甲斐もあり、一番右のベン以外は説明がなくても誰が誰なのかわかる

上が2016年の負け犬クラブ、下が1989年の負け犬クラブ。2016年組は1989年組と密にコミュニケーションを取り、子役たちの口調や動作をトレースしたという。その甲斐もあり、一番右のベン以外は説明がなくても誰が誰なのかわかる

恐怖とリアリティを増す音響設計に注目

 演出のアンディ・ムスキエティ、製作のバルバラ・ムスキエティ(アンディの姉)、脚本のゲイリー・ドーベルマン、編集のジェイソン・バランタイン、音楽のベンジャミン・ウォルフィッシュなど主要スタッフは前作と同じ。美術のポール・デナム・オースタベリーと衣装のルイス・セケイラは、ギレルモ・デル・トロの『シェイプ・オブ・ウォーター』からの新参加者だ。

画像: ファンミーティングに参加するため来日した、製作のバルバラ・ムスキエティ(左)と、監督でバルバラの弟でもある監督アンディ・ムスキエティ(右)。映画データベースサイト「IMDb」によると、次回作としてエズラ・ミラー主演のDCヒーローもの『フラッシュ』と、ハリウッド版『進撃の巨人』がアナウンスされている

ファンミーティングに参加するため来日した、製作のバルバラ・ムスキエティ(左)と、監督でバルバラの弟でもある監督アンディ・ムスキエティ(右)。映画データベースサイト「IMDb」によると、次回作としてエズラ・ミラー主演のDCヒーローもの『フラッシュ』と、ハリウッド版『進撃の巨人』がアナウンスされている

 製作費は、1作目の3,500万ドル(約37億8,000万円)から倍増しての7,900万ドル。製作費の違いは子役と人気俳優のギャラの差もあるだろうけど、見せ場も増えて、のっけから猛烈なパワーでペニーワイズの凶行とそれに立ち向かう負け犬クラブの戦いが描かれてゆく。

 そうとうの予算をココに注いだのでは? と思われるのが音響設計で、ダイナミックレンジの広さは前作を大きくしのいでおり迫力満点! サウンドデザイン監修は、『シャザム!』『レヴェナント:蘇えりし者』のビル・R・ディーン。リ・レコーディング・ミキサーは、メキシコ湾原油流出炎上事件を描いたパニック・ドラマ『バーニング・オーシャン』のマイケル・ケラーと、『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』『アクアマン』のティム・ルブラン。

 ペニーワイズ(ビル・スカルスガルド)のケタケタという笑い声や、忌むべきものが巣喰う町の空気がさらなるリアリティを持って迫ってくる。

 『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』のジェラルド・グティエレスが、ドルビーアトモスのリ・レコーディング・ミックスを担当。オブジェクト・ベース・オーディオの優位性がありあり。音のいい劇場で楽しみたい、大予算ならでは(たとえば『クワイエット・プライス』の4倍の製作費)の贅沢なホラー映画だといえる。

画像: この続篇で、さらに恐ろしくおぞましく進化したペニーワイズ。このキャラクターは、監督とビル・スカルスガルドが議論を重ねて作り上げたものだ。なお、興収は前作が1億2,300万ドル、今回が9,200万ドルで、これは歴代のホラー映画のオープニング週末興行の1位と2位となる

この続篇で、さらに恐ろしくおぞましく進化したペニーワイズ。このキャラクターは、監督とビル・スカルスガルドが議論を重ねて作り上げたものだ。なお、興収は前作が1億2,300万ドル、今回が9,200万ドルで、これは歴代のホラー映画のオープニング週末興行の1位と2位となる

怪物はどこから生まれるのか?

 冒頭すぐに事件が起こる。夜のカーニバル会場を歩くふたりの青年。因縁をつけたチンピラどもが片割れの青年エイドリアンをリンチし、河に投げ落としてしまう。「デリーで、お前らのようなゲイ野郎の野放しは許されねえんだよ!」。

 スティーヴン・キングの原作小説にも登場する、この喘息持ちの被害青年を演じているのは、『私はロランス』『トム・アット・ザ・ファーム』の才人グザヴィエ・ドランだ。小説と第1作のファンであり、ムスキエティ監督と仲のよかったドランは、ドアノブでもカーテンでもいいから出演させてと頼み込み、ペニーワイズの復活を示す美味しい役を演じることになった。

 この場面の基になったのは、現在もキングが暮らすメイン州のバンゴーで1984年に起きた同性愛の少年チャールズ・ハワード殺害事件だ。彼は3人の少年に襲われ、河に投げ捨てられて溺死した。反ヘイトクライムの象徴として市議会と有志によって河沿いにハワードを偲ぶ記念碑が建てられたが、何者かによって破壊され修繕がくり返されているという。

 小説「IT」「ドリーム・キャッチャー」などの舞台になったキング・ファンおなじみの架空の町デリー(モデルはバンゴー)はこういう土地なのだ。

 醜悪なものが澱のように溜まっている場所。監督から最初に出演を依頼されたジェシカ・チャステインが「怪物は多くの場合、人間の内部から生まれるのです。そういう穢(けが)れが私たちのなかにはあるのです」と語る感情。世のおとなたちが気づかぬふりをしてやり過ごす事態。それがITだ。

 27年が経ってもトラウマを抱える負け犬クラブの面々は、いまいちど醜悪と向き合い、通過儀礼としての戦いに挑む。子ども時代にきちんと終止符を打つために。少年時代、太っちょ少年ベンみたいな肥満体だったスティーヴン・キングは、ずっと虐げられたもの、脇に置かれた人間の悲しみを書いてきた。それが読者を癒してきたのだ。

 このあとも『シャイニング』スピンオフの『ドクター・スリープ』(11月29日公開)、穢れた土地を扱った『ペット・セメタリー』(2020年1月17日公開。愛娘ヴァージョンにシフトチェンジしたリメイク作。もち猫も出る)と映画化作品がつづくキング。『IT/イット THE END“それ”が見えたら、終わり。』ではひさしぶりにゲスト出演をしている。ビルが思い出の自転車シルヴァー号を見つけるアンティークショップの店主役で。

 彼はビルが書いた小説「黒い奔流」を読んでおり、カウンターに置かれた自著に気がついたビルは「サインしましょうか?」と話しかけるが、「いらん、結末が悪すぎる」と断られる。これはキングのバッド・エンディングの小説にもよく寄せられた感想。自虐ギャグを飛ばしているというわけだ。

 『ロストボーイ』のポスターや『エルム街の悪夢5/ザ・ドリームチャイルド』の看板、『遊星からの物体X』の××など、ホラー映画ファンならにんまりのサーヴィスが随所に散りばめられている。

 おとなになったベン(ジェイ・ライアン)が学校を訪ねる場面で机の上に置かれている亀の剥製。この亀はキングの小説にしばしば登場する守護神マトゥリンで、前作でも弟の幻影を見たビルが落として壊してしまうレゴのオモチャとして登場していた。

子役たちが成長していない!?

 前作は135分。今回は169分。少し長いのかなあ。でも原作ファンには朗報だろう。現在と過去を自在に、瞬時に行き来するあの驚異的な構成が、今回はカメラワークや編集で再現されているのだ。

 子ども時代の負け犬メンバーも再登場する。前作から2年ほどの合間があり、容姿が変わっていいミドルティーンの子役たちが同じ顔つきで現れるのにビックリした。

 ここには“De-Aging”(抗加齢)と呼ばれる画像加工技術が使われている。『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』でブラッド・ピットを、『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』でジョニー・デップを、『ターミネーター:新起動/ジェネシス』でシュワちゃんを、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』でカート・ラッセルを若返らせてきたローラVFX社が参加しているので、彼らが腕を振るっているのだろう。

画像: 明らかに前作にはなかったシーンが加わっているにも関わらず、子役がまったく成長していない姿で登場するのに驚く。まるで2作同時に撮影したかのように自然だ

明らかに前作にはなかったシーンが加わっているにも関わらず、子役がまったく成長していない姿で登場するのに驚く。まるで2作同時に撮影したかのように自然だ

 おとなになったエディを演じたジェームズ・ランソンは、撮影に入る前にもういちど原作本を読み返してみたという。「怖かったのは超自然的な要素ではなかった。登場人物全員が40代になっているのに、誰にも子どもがいないことだったんだよ」

 過去に囚われてきた負け犬クラブのメンバーに、子どもと共に歩む未来を考える余力はなかったのだろう。

 トラウマと向き合い、それを乗り越えたとき、マイクは、新しい外の世界を見に行くよ、とデリーの町をあとにする。ベヴァリーとベンも柔らかな陽の光りに包まれる。カチリ。カチリ。時計の針が再び動き出したのだ。

『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』

監督:アンディ・ムスキエティ
出演:ビル・スカルスガルド、ジェームズ・マカヴォイ、ジェシカ・チャステイン
原作:スティーヴン・キング
原題:IT: CHAPTER TWO
2019年/アメリカ/169分
配給:ワーナー・ブラザース映画
11月1日(金)IMAX / 4D / 吹替版 同時公開(一部劇場を除く)
(c) 2019 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED

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