ぼくが選曲・構成したSACD/CDハイブリッド盤『東京・青山骨董通りの思い出』が、2018年秋に発売された。誰もが首をひねるに違いない謎のタイトルだが、月刊「HiVi」2018年12月号(VSV 39ページ)で伊藤隆剛さんに明かされた通り、本作は、ぼくが大学に通っていた頃(1978〜1982年)、当地にあった輸入レコードショップの名店「パイド・パイパー・ハウス」(1989年に閉店)に捧げたディスクなのである。

 音楽が間違いなく若者文化の中心だったあの頃、「パイド・パイパー・ハウス」はそのトレンドセッターとして重要な役割を果たしていた。田中康夫さんのデビュー小説「なんとなく、クリスタル」(1980年)に登場する膨大な楽曲のネタ元は「パイド〜」だったし、ぼくの贔屓筋のミュージシャンもよく来店していた。ライ・クーダーやエルヴィス・コステロが熱心にレコード・ハンティングした店なんて、日本では「パイド〜」をおいてほかにないだろう。

60〜80年代米国産ロックの名曲を
とびきりの音のよさで満喫できる

 2018年初夏、ステレオサウンド社のレコード事業部から「ソニー・ミュージックの洋楽音源を使ったオーディオファイル向けコンピレーション盤の監修をお願いします」との依頼を受け、考えあぐねた末に思いついたのが、青春の思い出がつまった「パイド〜」で買った、もしくは店頭で流れていた思い出深い楽曲で、今再びSACDで聴き直したいと思える優れた録音のトラックで構成するというプランだった。

 収録曲は全14曲。冒頭にジェイムス・テイラー1977年のアルバム『JT』から「きみの笑顔」を置いた通り、中心となっているのは1970年代のアメリカン・ロック。2曲目「今宵はきみと」(1972年)のジェフ・ベック・グループと8曲目「キング・オブ・ロックンロール」(1988年)のプリファブ・スプラウトは英国のバンドだが、前者はスティーヴ・クロッパーがプロデュースしたメンフィス録音、後者はアメリカをテーマにしたLA録音。本作全体を印象づけるのは(ぼくにとっての)アメリカン・ロック黄金期のクリーンでヴァイタルなサウンドである。

▶収録曲
①きみの笑顔
  ジェイムス・テイラー(『JT』1977年作品より)
②今宵はきみと
  ジェフ・ベック・グループ(『Jeff Beck Group』1972年作品より)
③運命のひとひねり
  ボブ・ディラン(『Blood On The Tracks』1975年作品より)
④子供の目
  トム・ヤンス(『The Eyes Of An Only Child』1975年作品より)
⑤シティ・マジック
  レス・デューデック(『Les Dudek』1976年作品より)
⑥ドゥ・ユー・ウォント・トゥ・ダンス
  ジミー・メッシーナ(『Oasis』1979年作品より)
⑦モダン・ラヴァーズ
  ガーランド・ジェフリーズ(『Escape Artist』1981年作品より)
⑧キング・オブ・ロックンロール
  プリファブ・スプラウト(『From Langley Park To Memphis』1988年作品より)
⑨オンリー・ザ・ロンリー  
  ロイ・オービソン(『Lonely And Blue』1960年作品より)
⑩アイ・メット・ヒム・オン・ア・サンデー
⑪ザ・ベルズ  
  ローラ・ニーロ(以上『Gonna Take A Milacle』1971年作品より)
⑫ミー・アンド・ボビー・マギー  
  ジャニス・ジョプリン(『Pearl』1971年作品より)
⑬アメリカ        
  サイモン&ガーファンクル(『Simon & Garfunkel’s Greatest Hits』1972年作品より)
⑭ウー・チャイルド  
  ヴァレリー・カーター(『Just A Stone’s Throw Away』1977年作品より)

●マスタリングエンジニア:鈴木浩二 
④⑤⑥⑦⑧⑨⑩⑪⑬⑭ は初SACD化曲
全曲新規マスタリング音源をSACDおよびCD層に使用。マスター素材は、1/4インチ・アナログテープ(①②④⑥⑫⑭)、96kHz/24ビット・デジタルデータ(③⑧⑬)、192kHz/24ビット・デジタルデータ(⑤⑦⑩⑪)、176.4kHz/24ビット・デジタルデータ(⑨)をそれぞれ使用

 現代のオーディオファイルの耳に通用する優れた録音のトラックで構成するというのは、SACD化において重要なテーマ。ぼくの部屋のCD/LPラックを眺め、CDクォリティの定額制ストリーミング・サービス〈TIDAL〉等を利用して候補曲を数十曲選び、じっくり聴き込んだ。

 こだわったのは、ステレオスピーカーの周囲にサウンドステージがくっきりと浮かび上がるかどうか、豊かなエアーとスペースを実感させるトランスペアレントな録音かどうか、である。ヘッドホン・リスニングを念頭に置いているのか、昨今のポップス録音に多いマルチ・モノ的なべたっとした平板なサウンドステージを提示する楽曲は入れていない。その意味でも、本ディスクはぜひ貴方お気に入りの、手塩を掛けたスピーカーでお聴きいただきたいと思う。

 SACD層、CD層それぞれのマスタリングを担当してくださったのは、ソニー・ミュージックスタジオのベテラン・エンジニア、鈴木浩二さんだ。収録された楽曲のほぼすべてがアナログ録音で、元になるマスターは、日本盤LP発売当時に使われたサブマスターの4分の1インチ・アナログテープ、または本国のソニー・ミュージックから供給されたPCM系ハイレゾファイルである。その両方が揃っている楽曲については、東京・乃木坂のソニー・ミュージックスタジオで音を聴き比べ、すべてアナログマスターを選択した(14曲中6曲でアナログマスターを使用)。ちなみに14曲のうち初SACD化が10曲と思いのほか多い結果となったが、その意味でも本作はけっこう貴重なコンピレーション盤になったのではないかと思う。

 本国から届いたデジタルマスターは、デジタルアーカイヴされている、マスターテープにいっさい手を加えていないフラット・トランスファーされた素材とのことだったが、実際に聴き比べてみると、日本のソニー・ミュージックが保存していたアナログ・サブマスターのほうが音の鮮度感と〈勢い〉で上回ることがわかった。鈴木エンジニアには「音を磨きすぎず、この鮮度感と勢いを大事にしてマスタリングしてください」とお願いした次第。

 ぼくが選んだ14曲すべてが懐かしいとおっしゃってくださった鈴木浩二入魂のマスタリングが功を奏し、本作はとびきり音のよいディスクに仕上がったと自負している。ナチュラルな質感のなめらかなサウンドが楽しめるSACD層、メリハリの効いた鮮やかなサウンドのCD層と、それぞれのフォーマットの持味の違いが浮き彫りになっているところにも鈴木エンジニアの腕の冴えが実感できる。

 冒頭曲「きみの笑顔」が収録されたジェイムス・テイラーの『JT』はこのコンピ盤発売の後、フルアルバムとしてステレオサウンド社からSACD/CDハイブリッド盤で発売されたが、できれば他の12アルバムもこの仕様で発売してほしいと願っている。まあ全部は無理としても、未SACD化の9作品は全曲このクォリティで楽しみたいところ。とくにトム・ヤンス『子供の目』(1975年)、ガーランド・ジェフリーズ『エスケイプ・アーティスト』(1981年)、プリファブ・スプラウト『ラングレー・パークからの挨拶状』(1988年)、ローラ・ニーロ『ゴナ・テイク・ア・ミラクル』(1971年)、ヴァレリー・カーター『愛はすぐそばに』(1977年)の5枚は個人的思い入れが強いだけにぜひ! との思いが……。

 いずれにしても1960〜1980年代米国産ロックの音楽性の高さ、音のよさを訴求できる1枚に仕上がったと監修者として太鼓判を押したいと思います。ぜひ貴方のリスニングルームで確かめてください。

画像: 名盤ソフト 聴きどころ紹介2 /『東京・青山骨董通りの思い出』
Stereo Sound REFERENCE RECORD

SACD/CDハイブリッド クリティックスシリーズ
『東京・青山骨董通りの思い出』POPS & ROCK BEST SOUND SELECTION
選曲・構成:山本浩司
(ソニー・ミュージック ダイレクト/ステレオサウンドSSRR-11)¥3,700+税

●問合せ先:㈱ステレオサウンド 通販専用ダイヤル103(5716)3239(受付時間:9:30-18:00 土日祝日を除く)

●ご購入はこちら→ https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/rs_sacd/3058

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