あらゆる面で高品位な名盤を世界初SACD化。
瑞々しさと芳醇さを3次元的に体感できる逸品だ

 2018年末、ステレオサウンド社がオーディオファイル向けに「一定のグレードのオーディオ装置で再生したときにその作品の魅力をきちんと発揮できる」という基準で選んだロック〜ポップス系のSACD/CDハイブリッド盤をリリースした。今回の8タイトルはどれもが音楽シーンに楔を打ち込んだ傑作ばかりで、今回から4回に分けてその作品性とオーディオ的な聴きどころを詳解していく。

SACD/CDハイブリッド
ステレオサウンド オーディオ名盤コレクション 洋楽ポップス編
①ジェイムス・テイラー『JT』(SSVS-003)
②カーラ・ボノフ『ささやく夜』(SSVS-004)
③フェアーグラウンド・アトラクション『ファースト・キッス』(SSVS-005)
④アン・バートン『シングス・フォー・ラヴァーズ』(SSVS-007)
⑤ホリー・コール『ドント・スモーク・イン・ベッド』(SSVS-008)
⑥スザンヌ・ヴェガ『街角の詩』(SSVS-009)
⑦ナット・キング・コール『恋こそはすべて』(SSVS-010)
⑧ロイ・オービソン『アルティメット・コレクション』(SSVS-006)
価格は ①〜 ⑥は¥3,780(税込)、 ⑦⑧は¥4,500(税込)。

 で、女性ヴォーカルものに目がない僕にとって何より嬉しい一枚が、カーラ・ボノフの『ささやく夜』(1979年)だ。往時のアメリカン・ポップス界を席巻していた感のあるリンダ・ロンシュタットが1976年のアルバム『風にさらわれた恋』でその作品を3曲も取り上げたことで一躍世に知られる存在となったカーラだが、その持ち味はリンダとは対照的で、清涼な透明感と独特の物憂げな哀感で聴き手を深く惹き込んでいく。僕のような、女性に思慮深さを求める向きにとってどちらが魅力的かは明白だ。デビュー作は彼女の作家性をストレートにプレゼンテーションしたものだったが、この第二作『ささやく夜』はプロデュースを務める盟友、ケニー・エドワーズが彼女をより高い位置に持って行こうと明快な積極性も志向。西海岸きっての武闘派楽団、ローニン一派の剛毅な演奏で支える温度感の高い楽曲とカーラならではの憂いと哀感が滴る湿性の楽曲とが交互するハイブリッドな構成となっている。しかし、ワディ・ワクテル(g)やリック・マロッタ(ds)がどれだけ煽っても、カーラの作品の彫りの深さと滋味がその温度感を寸止めでクーリングし、楽曲の華に透徹なデリカシーが添えられる(だからこそリンダも彼女の楽曲に飛びついたのだ)。

画像: ディスクはグリーンコートの「音匠レーベルコート」仕様。今回のSACD/CDは、米国にあるアナログマスターから作られた96kHz/24ビットデジタルマスターをもとに、日本のソニー・ミュージックスタジオでマスタリングされている。エンジニアは鈴木浩二氏が担当している

ディスクはグリーンコートの「音匠レーベルコート」仕様。今回のSACD/CDは、米国にあるアナログマスターから作られた96kHz/24ビットデジタルマスターをもとに、日本のソニー・ミュージックスタジオでマスタリングされている。エンジニアは鈴木浩二氏が担当している

 今回の8作品は原盤保有元との調整結果に応じてDSD化の際に用いた素材の世代や規格が違うが、この『ささやく夜』は米本国に在るアナログ原マスターをデジタル化した96kHz/24ビットの音源をDSD化したもので、限りなく原マスターに近い点が特筆ものだ。ベスト・トラックはカーラとデイヴィッド・リンドリーの二人が奏でるアコースティック・ギターの美しいアルペシオが基軸となって展開する出色のスロー・バラード「ただひとり思い」だろう。カーラならではのマイナー基調の物憂いメロディ・ラインがまず素晴らしく、感情を抑えながらも想いをしっかりと伝えようとするヴォーカリストとして彼女の健気な誠実さに完全に魅了されてしまう。で、従来のディスクも相応の美音だったが、即効性のある訴求力を醸し出すため一定程度のコンプレッサーが掛けられている。もちろんそれは過度なものではないけれど、今回のストレートなマスタリングと聴き較べるとかなり厚化粧に感じられ、実際ディテイルの一部はスポイルされている。中盤でケニー・エドワーズの雄弁なベースがおもむろに入ってくるが、このSACD層ではそのアタックのエッジが見事に立ち、かつ肉感的に響き、直後から刻まれるラス・カンケルのほぼリズム・キープだけの簡素なスネア・ショットのスピーディな立ち上がりの繰り返しが聴き手の情感を深耕していく。何より、スライド奏法も交えたリンドリー入魂のギターの倍音の煌びやかな輝きとその減衰、そして今は亡き名手、ドン・グロルニックの蕩けるようなエレピとの絡みに陶然と聴き惚れる。

 心の奥底にまで沁みるメロディ・ライン、そしてケニー・エドワーズ一世一代の端麗なアレンジ、さらにはジェイムス・テイラー、J.D.サウザー、ガース・ハドソン等、豪華客演メンバーの宝石のような演奏やコーラス、とあらゆる側面で高品位な名盤中の名盤だが、コンプレッサーを極限まで抑え、SACD化することに由ってその瑞々しさと芳醇さを3次元的に体感できる。

 何百回と聴き惚れてきた作品で、その本質を真髄まで掌握していたつもりだったが、完全にアンサンブルの中に入り込んでいるようなこの感覚はかつて感じたことはなかったもの。まったく飾ったり奢ったりすることのないカーラの感性の吐露を純度100%で浴びることができ、AOR的という残念な誤認を払拭。彼女の稀有な作家性とシンガーとしての本領を堪能できる。今回の世界初SACD化はシンガー・ソングライター作品を嗜好するオーディオファイルにとって素晴らしい天恵であり、作品性、マスター・コンディション、供給フォーマットの3点から選べば僕の生涯ベスト10に入るかもしれない絶品ディスクだ。

画像: KARLA BONOFF/RESTLESS NIGHTS

KARLA BONOFF/RESTLESS NIGHTS

SACD/CDハイブリッド
ステレオサウンド オーディオ名盤コレクション

カーラ・ボノフ 『ささやく夜』(ステレオサウンド/ソニー・ミュージックSSVS-004)¥3,780(税込)●1979年作品

●問合せ先:㈱ステレオサウンド販売部 通販専用ダイヤル 03(5716)3239(受付時間:9:30-18:00 土日祝日を除く)

●ご購入はこちら→ https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/c/rs_ss_amc_pps

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