「4K有機ELレグザPro」を標榜する東芝第3世代の有機ELのトップモデルを入念チェック

 東芝65X930は画質的には、2019年仕様の有機ELパネルを搭載したのが注目だ。2018年版に比べ、テレビメーカー側のガンマや輝度特性の調整範囲を拡大したのが特徴で、つまりガンマを操る能力を持つメーカーにとっては、他社有機ELテレビとの差別化につながる。ここでは内蔵チューナー画質、HDMI入力画質を中心に、本機のクォリティを評価しよう。

 ① 放送画質。最初に決めるべきは、画質モードだ。レグザは伝統的に画質モードの開発力が高いメーカーで、これまでも独自の切り口で、業界初のモードをいくつも創造してきた。今回は色センサーによる環境適合「リビングAIピクチャー」が新設された。ここでは、その「リビングAI」、「標準」、「放送プロ」を事前に試したところ、解像感、コントラスト、階調、色再現がもっともバランスよく表示される、色温度8000K「放送プロ」がチェック目的には最適と判断した。

 テスト当日のその時間にオンエアされていた番組を観た。地デジのNHK総合は落語番組だった。質感がクリアーで、顔の中間色も素直だ。もとの信号の質がよいと、「深層学習超解像」「バリアブルフレーム超解像」などの小技が効き、地デジとは思えないしっかりとした情報感を見せてくれる。

 BSはどうか。まず2K。フルHDで放送しているNHK BSプレミアムの番組を見たが、映像情報量の多さと、階調再現性、そして色の落ち着きはさすが。NHK制作のクォリティの高さを感じさせた。特に有機ELのディテイルまでのコントラスト再現力は、フルHD放送に明瞭な画質を付与している。地デジと同じ水平1440×垂直1080画素の放送であるBS朝日でのプロ野球中継(オリックスvs阪神)は解像感も充分で、力感のある映像だった。制作サイドの品質管理の水準が高いとレグザも力を発揮できる。

 期待のBS4Kはどうか。NHK BS4K『フロムザ・スカイ〜空から見る日本 中部と近畿の旅』は、上空からの映像がひじょうに精細で上質で、地上の景色はさらに粒立ちが細かい。安曇野のわさび畑の水の透明さは、驚くほど。陽が当たりキラキラと輝くさまはHLGならではの生っぽさ。水の底の暗部とのダイナミックな対比が見事だ。ある意味画調が映画的なのも好ましい。

 65X930には、いかにもマニアックなレグザらしい、映像の周波数特性と輝度特性を示すチャート機能があり、それを確認すると、番組の意図がありありと分かる。『フロムザ・スカイ〜』はピーク輝度が数十、平均輝度が数nitだが、次に観たQVCチャンネルの4K通販番組は、ピーク輝度1000nit、平均輝度120nitなのである。テレビ通販と4Kは実に相性がよい。商品のディテイルの質感まで明瞭に描け、こんなに素晴らしいと映像で訴えられるからだ。QVCの4K放送は高輝度を「画質で売る」というレゾンデートルにしている。レグザの明朗/明確な画調は、QVCのメッセージである「画質で売る」を雄弁に伝えてくれる。

 

 

画像: HDMI端子は、18Gbpsのハイスピード仕様をなんと7系統も搭載、家庭用テレビとしてはおそらく史上最多の搭載だろう(弟機のX830シリーズは4系統の装備)。なお、音声デジタル出力も一般的な光端子に加えて、同軸デジタル端子も備わる

HDMI端子は、18Gbpsのハイスピード仕様をなんと7系統も搭載、家庭用テレビとしてはおそらく史上最多の搭載だろう(弟機のX830シリーズは4系統の装備)。なお、音声デジタル出力も一般的な光端子に加えて、同軸デジタル端子も備わる

画像: X930は、いわゆる全録機能であるタイムシフトマシンを搭載。インターネット動画配信サービスもNetflixやYouTube、DAZN、huluなどに対応(Amazon Prime Videoには非対応)。さらにユーザーの視聴履歴をAIが学習し、それらのサービスを横断して、番組をおすすめしてくれる「みるコレ」を搭載。タレント名や番組ジャンルなどさまざまなテーマにまるごと対応した「みるコレパック」も用意され、お気に入りを追加するだけで、関連した番組やネット動画が自動検索され、見たい番組をすぐ探せる。さらに「みるコレ」の設定から「おまかせ録画」にも対応しているのが、今季レグザの進化点でもある

X930は、いわゆる全録機能であるタイムシフトマシンを搭載。インターネット動画配信サービスもNetflixやYouTube、DAZN、huluなどに対応(Amazon Prime Videoには非対応)。さらにユーザーの視聴履歴をAIが学習し、それらのサービスを横断して、番組をおすすめしてくれる「みるコレ」を搭載。タレント名や番組ジャンルなどさまざまなテーマにまるごと対応した「みるコレパック」も用意され、お気に入りを追加するだけで、関連した番組やネット動画が自動検索され、見たい番組をすぐ探せる。さらに「みるコレ」の設定から「おまかせ録画」にも対応しているのが、今季レグザの進化点でもある

 

 

コンテンツの画調、魅力を巧みに引き出して感動へ導く

 ② HDMI入力。まずBDをパナソニックの4Kレコーダー、DMR-SUZ2060で2K再生してチェック。ロイヤル・コンセルトヘボウ管の『牧神の午後への前奏曲』だ。本BDの音質は音楽ソフトとしては最上級で、画質もひじょうにすぐれている。画質モードは明瞭感が高い「標準」に設定。放送では、「放送プロ」モードの標準値で観たが、ここからはイコライジングを行なう。基本は輝度/黒レベル/彩度だが、65X930でひじょうにやりにくいのが、輝度調整とその他の調整が別ページであること。「明るさ」はイコライジングのトップ画面で調整し、その他は「映像調整ボタン」を押して次の画面を出してアジャストしなければならない。

 デフォルトではコントラストや色の彩度が高すぎるので調整していく。「明るさ」はセンター値(ー15〜+15)から「ー9」に落とし、「黒レベル」(ー50〜+50)は階調方向に振って、「+9」。「彩度」は、もともとこってりと色が乗っていたので「ー10」に落とす。これでいい感じにバランスし、落ち着きと同時に力感と色彩感も楽しめる上質なコンサート映像になった。有機ELらしさは、オルガン部やステージ奥の扉の濃い茶色の重々しさ、ホール全体の中間色の気品、奏者の燕尾服の黒階調のなめらかさに現れている。

 BDでは邦画もチェックした。今年のDEG主催の日本ブルーレイ大賞で高画質賞を獲得した、邦画画質の最高峰『8年越しの花嫁 奇跡の実話』だ。フォーカスが抜群によく、日本的な感性を残しながら、クリアーで透明度が高いコンテンツ映像だ。画質モードは「映画プロ」。もとより多い階調数を正確に再現すべく「黒レベル」を「+31」に上げた。私はこの作品をさまざまなディスプレイで観てきたが、65X930では、ここまでの上質な情報性と情緒性が込められていたのかが明確に識れた。土屋太鳳の肌のみずみずしさ、黒髪の艶、瞳のきらめき……という絵的な魅力を、65X930は最大限に引き出す。

 その美質がさらに輝くのが、「ピュアダイレクト」を「オン」とした状態。ノイズリダクションが外れると、それにて隠されていた微少部分が露わになり、さらに作品性が向上した。質感がさらに精密になり、色推移の抑揚がこまやかに表現され、ハリウッド作品とは違う日本的な奥ゆかしさすら感ずるのである。もともとのコンテンツが持つ画調的な特性を65X930が巧みに引き出したとも言えよう。

 

 

画像: 映像設定の基本メニュー。映像モードの選択のほか、「コンテンツモード」や「明るさ」、「倍速モード」、「低遅延モード」、「明るさ検出」が用意される。詳細な設定は、「詳細調整」から行なう

映像設定の基本メニュー。映像モードの選択のほか、「コンテンツモード」や「明るさ」、「倍速モード」、「低遅延モード」、「明るさ検出」が用意される。詳細な設定は、「詳細調整」から行なう

画像: 映像メニューを一新。「リビングAI」、「放送プロ」、「ディレクター」、「モニター/PC」が新設された。「リビングAI」は、本体前面の電源ランプ左脇に仕込まれたセンサーで使用環境の明るさ、色温度などをセンシング、最適な画面の明るさ、色温度設定を自動的に行なうモードだ

映像メニューを一新。「リビングAI」、「放送プロ」、「ディレクター」、「モニター/PC」が新設された。「リビングAI」は、本体前面の電源ランプ左脇に仕込まれたセンサーで使用環境の明るさ、色温度などをセンシング、最適な画面の明るさ、色温度設定を自動的に行なうモードだ

画像: 本機はHDR10、HLGに加えて、ドルビービジョンやHDR10+というふたつのダイナミック方式のHDR規格に対応する。ドルビービジョン信号を表示する場合は、画質モードは「あざやか」、「Dolby Vision Bright」、「Dolby Vision Dark」の3つのみが選べる

本機はHDR10、HLGに加えて、ドルビービジョンやHDR10+というふたつのダイナミック方式のHDR規格に対応する。ドルビービジョン信号を表示する場合は、画質モードは「あざやか」、「Dolby Vision Bright」、「Dolby Vision Dark」の3つのみが選べる

画像: 「詳細設定」で、「黒レベル」、「色の濃さ」、「色あい」等を調整できる。「ピュアダイレクト」は12ビット/4:4:4の高精度な状態で行なう信号処理のモードで、高画質コンテンツでより稠密な映像表現が期待できる。ただし、ノイズが多い映像なども、ダイレクトに表示することになるので、そうしたコンテンツは「ピュアダイレクト」は「オフ」のほうがふさわしい

「詳細設定」で、「黒レベル」、「色の濃さ」、「色あい」等を調整できる。「ピュアダイレクト」は12ビット/4:4:4の高精度な状態で行なう信号処理のモードで、高画質コンテンツでより稠密な映像表現が期待できる。ただし、ノイズが多い映像なども、ダイレクトに表示することになるので、そうしたコンテンツは「ピュアダイレクト」は「オフ」のほうがふさわしい

画像: レグザには伝統的に映像信号のステータスをわかりやすく詳細する美点が備わっている。HDR情報も詳しく表示できる。写真はHDR10+コンテンツ再生時のシーン詳細情報となる

レグザには伝統的に映像信号のステータスをわかりやすく詳細する美点が備わっている。HDR情報も詳しく表示できる。写真はHDR10+コンテンツ再生時のシーン詳細情報となる

画像: 「プロ調整」項目は、プロ用モニターとして本機を使う際に使われるやや細かい調整項目。家庭用コンテンツを再生する場合は特に意識する必要はないだろう

「プロ調整」項目は、プロ用モニターとして本機を使う際に使われるやや細かい調整項目。家庭用コンテンツを再生する場合は特に意識する必要はないだろう

画像: 「映像調整」→「詳細情報」→「映像分析情報」の2ページ目は、映像輝度と周波数ヒストグラムをリアルタイムで表示する画面となる。ここまでの情報をユーザーにわかりやすく表示するのはレグザだけの大きな特徴だ

「映像調整」→「詳細情報」→「映像分析情報」の2ページ目は、映像輝度と周波数ヒストグラムをリアルタイムで表示する画面となる。ここまでの情報をユーザーにわかりやすく表示するのはレグザだけの大きな特徴だ

 

 

暗くても鮮明な色模様。この暗部階調は画期的だ

 では、UHDブルーレイだ。お馴染み『宮古島〜癒やしのビーチ』。画質モードは「映画プロ」。各値はデフォルトのまま、観た。この作品は、再生するディスプレイのクセを見事なまでにリアルに映し出す。本作を観れば強調型か、バランス型か、抑揚型か……がすぐに分かる。その切り口からすると、65X930はひじょうに精細感と色彩感が豊富で、同時に自然な画調だ。チャプター5「長間浜」。浜辺の中央の岩の存在感が印象に残る。ごつごつした岩の黒部、グレー部のそれぞれのテクスチャーが臨場感豊かに再現されるではないか。砂浜のアップシーンでは色の階調情報が目立って多く、白、赤、茶色とさまざまな色の砂が蝟集し、砂浜には色彩のバラエティが形成されている。微細な砂粒にも精妙に立体感が付与されている。しかも、見せ方は人工的ではなく自然だ。

 こうしたナチュラルさこそ、有機EL最新機の美質だろう。以前は、いかにも高彩度、ハイコントラストないわゆる有機EL調が主流だったが、65X930を観ると、パネルの使いこなしに成熟し、有機ELの特徴を持ちながらも、ナチュラルな質感を描くようになった。その典型を『宮古島〜』に見た。

 これまで有機ELテレビで問題だった、微小レベルでの暗部階調再現はどうか。それを試す格好のシーンが、映画『マリアンヌ』チャプター11のドイツ空軍によるロンドン空襲場面だ(プレーヤーはパナソニックDP-U9000を使用)。有機ELはこれまで、全暗から光り出す部分の微細な階調表現が難しかった。ゆえにこの場面では、単に黒の中に多くのオブジェクトが沈んでいたケースがほとんどだった。ところが65X930では、そんな暗部にも豊かな色模様があることが、鮮明に分かる。これまでは暗部に隠されていた家の造形が鮮明に、夜空に舞う爆雲と爆撃機の軌跡が明瞭になり、上司が着るコートが薄茶色であることに加えて高級な質感を備えることまで、暗くても分かる。最新有機ELの暗部表現性はここまで来たのかと思った。

 本機はドルビービジョンとHDR10+のふたつのダイナミック方式のHDR規格に対応する贅沢な仕様だ。UHDブルーレイ『ボヘミアン・ラプソディ』でHDR10とHDR10+を比較したところ後者では光の抑揚感が違う。ドルビービジョンは『ジャスティス・リーグ』でHDR10と比較。HDR10に比べ、レンジ感が広くピークが強い。きらめき感も派手で、作品性に合った力感映像だ。

 結論を述べると、有機ELテレビはここまで来たかとの印象が強い。登場初期のクセっぽさや、過剰な色彩感は影を潜め、ウェルバランスでキメが細かく、でもやはり有機ELならではの個性がキラりと感じられる映像となった。新パネルをここまで使いこなせたのも、東芝が液晶時代から営々と蓄積してきた独自の絵づくりテクニック故のことだろう。有機ELが新たな地平を獲得した傑作機だ。

 

 

画像: NetfliXの『ROMA/ローマ』を再生しているところ。ドルビービジョン映像と5.1ch音声での再生ができる。本機のサウンドシステムはドルビーアトモス再生には対応していないので、HDMI ARCによりAVセンターを介して外部サウンドシステムを用いても、ドルビーアトモス再生はできない

NetfliXの『ROMA/ローマ』を再生しているところ。ドルビービジョン映像と5.1ch音声での再生ができる。本機のサウンドシステムはドルビーアトモス再生には対応していないので、HDMI ARCによりAVセンターを介して外部サウンドシステムを用いても、ドルビーアトモス再生はできない

画像1: 【最新4Kテレビ レビュー】
傑作!有機ELはここまで来た TOSHIBA 65X930
画像: 「音声設定」→「音声出力詳細設定」内で、「デジタル音声出力」を「ビットストリーム」、「PCM」が選べる。「ビットストリーム」からさらに「オート」、「Dolby Audio変換」、「デジタルスルー」が選択可能で、デノンAVC-X8500HとのHDMI ARC連携時には、「オート」あるいは「Dolby Audio変換」で、BS4Kの5.1ch番組がドルビーデジタル形式でマルチch出力できた

「音声設定」→「音声出力詳細設定」内で、「デジタル音声出力」を「ビットストリーム」、「PCM」が選べる。「ビットストリーム」からさらに「オート」、「Dolby Audio変換」、「デジタルスルー」が選択可能で、デノンAVC-X8500HとのHDMI ARC連携時には、「オート」あるいは「Dolby Audio変換」で、BS4Kの5.1ch番組がドルビーデジタル形式でマルチch出力できた

 

視聴に使った機器
● 4Kレコーダー:パナソニックDMR-SUZ2060
● UHDブルーレイプレーヤー:パナソニックDP-UB9000 (Japan Limited)

視聴に使った主なソフト
● BS4Kオンエア
『野球中継(オリックスvs阪神)』(BS朝日4K)、『フロムザ・スカイ 空から見る日本 中部と近畿の旅』(NHK BS4K)以上、HDR
● BD:『ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲/ガッティ&コンセルトヘボウ管弦楽団』、『サウンド・オブ・ミュージック』、『8年越しの花嫁 奇跡の実話』
● UHDブルーレイ:『宮古島 癒やしのビーチ』、『4K夜景』、『マリアンヌ』、『グレイテスト・ショーマン』、『ハドソン川の奇跡』(以上、HDR10)、『ボヘミアン・ラプソディ』(HDR10+)、『ジャスティス・リーグ』(ドルビービジョン)
● Netflix:『ROMA/ローマ』、『パニッシャー』、『バスターのバラード』(以上、ドルビービジョン)

画像2: 【最新4Kテレビ レビュー】
傑作!有機ELはここまで来た TOSHIBA 65X930

TOSHIBA
65X930

オープン価格(実勢価格55万円前後)

●画面サイズ:65型 ●パネル:有機EL ●解像度:水平3840×垂直2160画素
● 内蔵チューナー:地上デジタル×9、BS/110度CSデジタル×3、4K BS/110度CSデジタル×2、4K対応スカパープレミアムチューナー×1
● 接続端子:HDMI入力7系統、デジタル音声出力2系統(光、同軸)、USBタイプA4系統、LAN1系統 他
● 寸法/質量:W1447×H846×D267mm/約47.5Kg(スタンド含む)
● 問合せ先:東芝テレビご相談センター TEL 0120-97-9674

画像3: 【最新4Kテレビ レビュー】
傑作!有機ELはここまで来た TOSHIBA 65X930

 

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