8K放送をホームシアターで受信したら、どれほどのクォリティで楽しめるのか? オーディオビジュアルファンなら誰もが気になっている疑問を、麻倉怜士さんに解消してもらおう! そんな思いで酒井俊之さんと編集部は、麻倉さんのシアタールームにお邪魔した。しかし、放送開始以来、毎日8Kをチェックしているという麻倉邸の8Kライブラリーの魅力は、ふたりの予想を超えて素晴らしかったのです。

※前回の内容はこちら → https://online.stereosound.co.jp/_ct/17282268

画像1: シャープもNHKも、もっと8Kをアピールをしていくべきだ! 体験する場が増えていけば、この品質に魅了される人は絶対増えるだろう【シリーズ:4K(8K)深掘り05】

——ところで酒井さんが今日一番驚いた8K番組はどれでしたか?

酒井 ドラマの『コーラス』です。あの演出には驚きました。まさに8Kならでは、です。アパートの6部屋を横から見たセットが組まれていて、同時進行的にストーリーが進行していく。これはもうそもそもの企画が優れていますね。

 同じコンセプトで地デジや2Kで作ろうと思うと、ひと部屋ひと部屋でカットを割って寄りの映像にする必要がある。しかし8Kならワンカットで見ても、それぞれで何が行なわれているかがちゃんと認識できる。視聴者側は気になるところを好きなように観ることができるわけで、右端の部屋を観る人も居れば、左端を観る人もいる。勝手に選べるわけでしょう?それが面白い。

 NHKでは8Kを活かした番組作りを模索しているのでしょうが、そういう意味ではこの番組などはとても挑戦的だと感じました。同じ事を2Kでやっても意味がない。8Kならではの企画意図を感じましたし、それがしっかり実現されている点が凄いと思いました。

麻倉 8Kはミクロ×マクロという側面を持っています。2Kではミクロかマクロのどちらかしか表現できないけれど、8Kならそれを両立できる。とても細密で、でもそのひとつひとつが動いている。確かに8Kらしい提案です。

酒井 ミクロ×マクロ。わかります。しかもこの『コーラス』も4Kでは放送していない(笑)。意外と8Kでしか放送していないコンテンツがあるんだなぁと、改めて実感しました。

麻倉 私は『写真家たちの挑戦 新絶景タイムスケイプ』にも注目しています。なかでも『中川達夫 月明かり星明かり』が素晴らしかった。

 このシリーズは8Kデジタル一眼レフカメラで撮影したタイムラプス映像で構成されていますが、この回は昼間だけでなく、月明かりで撮影した映像も多く使われていました。それがとても柔らかく、情緒的な景色なのです。

 そもそもわれわれは、普段は太陽光が反射した物体を見ているわけで、それが当たり前だと思っています。しかし実はそうではなく、景色というものは光の有無に関係なくそこに存在しているのです。昼間はたまたま太陽光で見ているけれど、実は夜も月明かりで“風景”を見ることができるのです。

 映像の専門家であるI3(アイキューブド)研究所の近藤哲二郎さんの言葉を借りると、これこそ“光景”です。

 太陽光ではシャープでくっきりした映像になりますが、月明かりではシャープだけどそこに柔らかさのある、違うレンズで撮ったような印象になります。8Kだからこそ表現できることが、その映像の中にあると思うのです。その意味ではこの番組からは新しい見方を感じました。まさに“ビジュアルショック”を受けたのです。同じく近藤哲二郎さんの言葉をでは、それは心が揺り動かさせられる“情景”になりました。

酒井 確かに月明かりで撮影した映像の質感は見たことがないものですね。夜の闇にもちゃんと色があったのだというところが再現されているのは驚きです。

麻倉 月明かりで撮影した映像は、普段見ているものより柔らかくて、独得の色味が美しい、まさしく8K放送でないと楽しめない絶景なのです。究極のマジックアワーともいえるでしょう。

画像2: シャープもNHKも、もっと8Kをアピールをしていくべきだ! 体験する場が増えていけば、この品質に魅了される人は絶対増えるだろう【シリーズ:4K(8K)深掘り05】

酒井 定番の『ルーブル〜永遠の美』も8Kではさらに凄かったですね。

麻倉 『ルーブル〜』は4K/8K放送開始から目玉コンテンツとしてリピートされているので、見たことのある方も多いでしょう。目玉は先日のStereoSound ONLINEでの山本さんと久保田さんの対談(https://online.stereosound.co.jp/_ct/17275927)でも紹介されていた「聖母ロランの肖像」ですが、「ナポレオンの戴冠」も、黄金のガウン描き込みもひじょうに素晴らしい。

酒井 元々は絵画なのだから平面のはずなのに立体感が出てくる。玉座の手前と後ろで確かに違いがあるし、左右の人物の前後の立ち位置までわかります。

麻倉 遠近法の効果が本物以上に感じられます。作者の
ジャック=ルイ・ダヴィットが狙っていたことが、8Kを通して正しく再現出来ているのでしょう。

酒井 言ってみれば当時のバーチャルリアリティですね。それが8Kなら再現できる。4Kではここまでの奥行感はなかった。何気ないところでリアリティを感じさせてくれるのは8Kと4Kの違いですね。

麻倉 『究極ガイドTV 2時間でまわるヴェルサイユ宮殿』も高画質のお手本です。特に鏡の間のシーンが素晴らしいのです。

酒井 ガラスの表現、透明感、光沢感いずれも素晴らしかった。一方で蝋燭の灯りも白トビしていません。HLGらしい絵が再現出来ている。アンバーのトーンを出しつつ、同時に外から太陽光が差し込んでいるのに、まったくハレーションを起こしていません。天井の薄暗い階調もちゃんと再現できていますね。

麻倉 8Kは神の視点に近い表現力があると私は感じています。鏡の間の再現にしても、部屋全体の臨場感、豪華絢爛さがひとめで伝わってくる。まさに圧倒的な映像の力が桁違いなのです。

酒井 個人的なお気に入りとお薦めは『メガシティ大発光 空から見た東京夜景』です。先日4Kで再放送されたのを録画していまウチでは繰り返して観ています。

『メガシティ大発光 空から見た東京夜景』視聴インプレッション
8K/HDRで見る夜景は、こんなに凄いのかと驚くはず

 StereoSound ONLINE視聴室での取材で、本作の4K版を有機ELテレビで見て以来、ずっと気になっていた番組。先日やっと4Kで再放送されましたのでようやく録画することが出来ました。

 よくこれだけの奥行感、立体感のある映像を撮影できたものだと感心します。こういう映像こそ、思わず覗き込みたくなりますね。街のディテイルの情報も膨大なのに、どこも潰れることなく再現されているのが凄い。

 番組自体もゆったりとした作り。8Kを分かっている人が作っているんだなぁと思います。2Kだと作り手が見せたいところを演出、強調するのでしょうが、どこを見るかを視聴者に委ねている。

 相当な量の撮影素材のなかから厳選した映像で構成しているのでしょう。30分番組ではもったいない。好きなレコードをかけながらBGV的にリピートして観るのにぴったりなプログラムです。(酒井)

 まさに天上からの神の視点で作られた、8K/HDRの魅力を堪能できる番組です。特に八重洲の夜景が素晴らしい。ビルの立体感もあり、さらに窓ひとつひとつの色の違い、オフィスで働いている人の様子まできちんと描き分けられています。

 スタビライザーがいいのか、空撮なのにまったく揺れがありません。東京の街ってこんな風に見えるんだ、という再発見がありました。

 同じ景色を昼間撮影しても面白くなかったでしょうね。夜の、表情がガラッと変わったビルで、ひとつひとつの窓にストーリーを感じるあたりが、作品としての素晴らしさにつながっています。(麻倉)

酒井 『ジャイアントスクリーン』シリーズの『アメリカンミュージックジャーニー』も印象的でした。このシリーズはIMAX65mmで撮影された素材を使った番組。先日4Kでも放送されました。8Kではやはり印象が違いますね。

 4K版はもう少しきりっとした画調に感じられました。確かに綺麗な映像なんだけど、絵づくりとしてはオーソドックス。突出して高画質だというインパクトはありませんでした。

麻倉 アメリカ文化的といいますか、分かりやすい、ストレートに色を出してきた絵づくりだと感じました。でも、8K映像としては見やすく仕上がっていて、フィルムから8Kに変換したアナログ撮影的な優しいニュアンスを感じます。

——日本的な8Kという意味で、『庭は一幅の絵画である 足立美術館 世界一の庭の四季』もご覧いただきましたが、いかがでしたか?

酒井 被写体が身近な存在の日本の風景だと、8Kのよさがさらにわかりやすいですね。高精細、HLGの効果が活かせる映像がしっかり捉えられています。どこにでもあるような何気ない風景が8Kで出てくるとその生々しさにびっくりしますね。

麻倉 『大迫力! 長岡の大花火』もなかなか素晴らしいコンテンツでした。HLGの効果も満載で、奥行が再現できるから、花火がちゃんと丸く見える。

酒井 これは素晴らしい! 2Kだと平面的なんですが8Kでは球体なのがわかります。映像にも品が感じられますね。

麻倉 火の粉も消え際までこと細かに見えるので、余韻を感じますね。もともとの花火の凄さ、美しさを生成りに表現したら、こうなりましたという素直さがいいのでしょう。

酒井 最近の地デジやBSでは、演出過多な映像が多い。だから、いいものをそのまま撮った、こういった番組を観ると落ち着いて楽しめます。

麻倉 もともと被写体には情報があるわけで、そのまま撮せれば良かったんですが、2Kではそれを出せなかったから演出していたわけです。しかし8Kならそんな手間はいらないのです。

8Kチューナー内蔵テレビ シャープ8T-C80AX1オープン価格(市場想定価格200万円前後)

画像3: シャープもNHKも、もっと8Kをアピールをしていくべきだ! 体験する場が増えていけば、この品質に魅了される人は絶対増えるだろう【シリーズ:4K(8K)深掘り05】

●パネル方式:VA方式液晶 ●画面解像度:水平7680×垂直4320画素 ●バックライト:直下型LED ●視野角:176度 ●内蔵チューナー:BS8K×1系統、BS4K/110度CS4K×2系統、地上デジタル/BS・110度CSデジタル×3系統 ●接続端子:HDMI入力5系統、光デジタル出力1系統、ほか ●寸法/質量:W1810×H1132×D440mm/62kg ●問合せ先:シャープ(株)お客様相談室 Tel0120-001-251

——ここまで、麻倉さん厳選の8K番組を見せていただきましたが、いかがでしたか?

酒井 8Kでしかできないことは何か。番組作りには独自の切り口や企画が必要なことがわかりました。

 4K放送の中にも、これなら2Kでもいいんじゃないかという番組が、特に民放チャンネルには多くあります。でも今日拝見した番組は、8Kだからという発想がきちんと感じられました。筋が一本通っている。その作り方は間違っていませんね。

麻倉 8Kには特別なポジショニングがあって、であるならば4Kとはまったく違う視点でものを考えるべきです。それが8Kのメリットのはずです。

酒井 もちろん『8Kベストウィンドー』のように8K収録したもの4Kで見せるといった番組もあって、それは視聴者としては嬉しいのですが、8Kじゃないと駄目という作品もやはり存在している。その意識の高さを痛切に感じることが出来たのが、今日の一番の収穫かもしれません。

麻倉 『ジャイアントスクリーン』で面白かったのは、シンプルでストレートで、色の強さを押し出したものが多かったことです。同じ8Kだけど、NHKとも違って、お国柄がでてきていることがわかりました。

 実は先日カンヌで開催されたMIP TVという展示会に参加してきたのですが、そこでのテーマも8Kでした。会場では、イタリアやアメリカのプロダクションが作成した番組をデモしていたのですが、これがなかなかユニークだったのです。

酒井 世界中で8Kを放送しているのでは日本だけと聞いていますが、その8K番組は他で使われることもあるんですか?

麻倉 ひとつには、海外でも4K放送が始まっていますので、ダウンコンバートして使われるようです。また放送だけでなく、5Gが始まった後の配信コンテンツも想定しているのでしょう。

酒井 なるほど、8Kはもう放送だけのものではないわけですね。

麻倉 世界の認識はそうなっています。MIP TVの会場で面白かったのは、ヨーロッパのTV局が作る番組がとても民族的だったんです。NHKがヨーロッパのホールで収録すると、出張しましたので頑張って作りましたという印象になるのですが、現地のスタッフだと、普段からそれらの芸術に親しんでいる人が撮っているということがうかがえます。

 世界中ではそれくらい8Kが使われ始めていて、それぞれの文化の違い、その人なりの8Kの切り口も出てきています。これが進んでいくと、NHK制作とは違う、見たこともない8Kが楽しめるようになるかもしれないのです。その意味では、これからの世界の8Kに期待したいと思います。

画像: 8K録画用USB HDDの8R-C80AX1(市場想定価格13万円前後)。HDD容量は8Tバイトだが、麻倉邸では既に満杯に近い状態とか

8K録画用USB HDDの8R-C80AX1(市場想定価格13万円前後)。HDD容量は8Tバイトだが、麻倉邸では既に満杯に近い状態とか

——最後に、今日の8Kを体験した感想を聞かせて下さい。

酒井 4Kの番組は2Kの延長線上にある。8Kの番組も4Kの延長線上にあると思っていましたが、実際はそうではなかった。そんな番組をいかに増やしていけるかが8Kを見たいと思わせることにつながっていくのだということを実感しました。

 送り手としてどれだけ智恵を絞った番組を作れるのか。スペック的な情報量やHDRにおもねるのではなく、番組の本質として8Kをどう捉えるかですね。

麻倉 よく番組の互換性が大切だと言われますが、8Kはワン・アンド・オンリー、孤高の存在としての価値がないといけません。その点は制作陣にもしっかり意識して欲しい。

 でも一方で、NHKだけでは限界もありますから、世界中のクリエイターに8Kを渡して、どんどん8K制作に取り組んでもらうべきでしょう。

 また8Kは見る方も4Kとは違うという意識も必要です。従来のTV番組の画質がよくなるということではなく、放送というそのものが変わるということを意識しないと、番組が楽しめないかも知れません。

酒井 そこまで視聴者に心構えを要求するのは、放送としては初めてのことですね。映像コンテンツにこだわる、楽しむ側の高い意識が求められている。

 これまでの“TV放送”とは違う、8Kではより面白い、興味をそそる番組が実現できるわけですから、ぜひ旗振り役のNHKには頑張って欲しいと思います。

麻倉 その通りですね。そこにもうひとつ期待したいのが、8Kレコーダーが欲しいということです。そうなれば8Kで録画して、4Kテレビで見るという環境も実現出来るはずですし。

酒井 シャープ以外のメーカーにも早く8Kテレビを出して欲しいですね。現状ではじゃあ僕もすぐに8Kテレビを買います、とはさすがに……(笑)。

 価格の面でも、ラインナップとしても、8Kテレビの選択肢が少なすぎる。いまの4Kのように単体チューナーが豊富というわけでもない。ここをなんとかしてくれないと、いくら欲しくても手が出ないわけですからね。

麻倉 まったくその通りですね。わが家の8T-C80AX1も市場想定価格は200万円全後ですから、導入するにはかなりの決断が必要です。ラインナップについては、今年の後半にはシャープ以外のメーカーからも8Kテレビが発売されるはずですので、そこに期待しましょう。

酒井 LGの8K有機ELテレビでも数百万円とか? いつごろ今の4Kテレビのような価格になるんでしょうか。

麻倉 8Kについてはもっと認知が進んでいかないと、なかなかテレビの値下がりは期待できませんね。そのためには酒井さんがおっしゃる通りラインナップの充実も必要だし、同時により多くの層に8Kを体験してもらうことも大切です。

酒井 先日もシャープが秋葉原で8Kキャラバンというプロモーションを開催していたようですが、もっともっとエンドユーザーが気軽に8Kに触れられる場があればいいですね。

 先ほども言いましたが、乃木坂46や宝塚のファンがステージの模様を8K映像で見たら絶対8Kテレビが欲しくなるはず。存在が知られていないようではせっかくのコンテンツも宝の持ち腐れでしょう。そのためには4K放送でも8K制作の番組をもっと積極的にオンエアしてもいいと思います。

麻倉 それは重要な指摘です。シャープだけでなく、NHKもせっかくいい番組を作っているのに、そのアピールが足りない。ここは関係者に猛省していただきたいですね。

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