同人音楽ユニットBeagle Kickが新作となる2ndアルバム『MIRACLE』をリリースした。ハイレゾ版(WAV/FLAC)、MQA版、MQA-CDの3バージョンを同時発売するという同人音楽初の快挙を成し遂げた作品で、ハイレゾの可能性を追求しているBeagle Kickの現時点での最高到達点だと言える。彼らの活動を追いかけているステレオサウンド ONLINEでは、アルバム発売の知らせを受け、メンバーの和田貴史橋爪徹の二人を直撃。彼らがこのアルバムでどんな新しい取り組みをしているのか、またそのサウンドをどう考えているのか話を聞いた。(ステレオサウンド ONLINE)

【ALBUM】
『MIRACLE』
Beagle Kick

画像: ハイレゾ版(WAV/FLAC) MQA版 MQA-CD版 各2,500+税 http://beaglekick.com/

ハイレゾ版(WAV/FLAC)
MQA版
MQA-CD版
各2,500+税
http://beaglekick.com/

画像: Beagle Kick 2nd.Album "MIRACLE" フル試聴 www.youtube.com

Beagle Kick 2nd.Album "MIRACLE" フル試聴

www.youtube.com

Beagle Kickはハイレゾの可能性に挑み続ける挑戦者

 インタビューに入る前に、Beagle Kickについて紹介をしたい。Beagle Kickは2013年に作曲家の和田貴史と音響エンジニア/オーディオライターの橋爪徹によって結成された音楽ユニットだ。彼らは、プロ/アマを問わず音楽表現を追求する同人を舞台に、ハイレゾの可能性を広げるべく、新しい技術をいち早く取り入れたチャレンジングな手法で作った楽曲を続々と発表している。

 Beagle Kickの魅力は、音のスペシャリストが商業活動と別のフィールドで本気に音楽、音質を追求しているところにある。

 和田はNHKの特番やドラマ、TVアニメ作品などで劇伴を手掛けるなど、第一線で活躍する作曲/編曲家でありながら、レコーディングからミキシング、マスタリングまで一貫してこなすマルチな才能の持ち主。携わった楽曲の中には自身のスタジオにミュージシャンを集めて、和田のエンジニアリングによってできた作品もあるという。

画像: 和田貴史。作曲やエンジニアリングを担当。Beagle Kickのミュージシャンはほとんどが彼の仕事仲間でもある

和田貴史。作曲やエンジニアリングを担当。Beagle Kickのミュージシャンはほとんどが彼の仕事仲間でもある

 橋爪は音響エンジニアの傍らでオーディオライターとしても活躍し、プロ用/コンシューマー用両方の音響機器に精通している。彼も自身のスタジオ「Studio 0.x」を持ち、そこでヴォーカルやナレーションなどのレコーディング、オーディオ&ビジュアル機器の試聴を行なっている。そんな音のスペシャリストが意気投合。「ハイレゾの可能性の追求」をコンセプトに生演奏にこだわった作品を作り続けているのだ。

画像: 橋爪徹。Beagle Kickでプロデューサーも務める。今回の取材は彼のスタジオ「Studio 0.x」で行なった

橋爪徹。Beagle Kickでプロデューサーも務める。今回の取材は彼のスタジオ「Studio 0.x」で行なった

その取り組みについて、過去にステレオサウンド ONLINEで取り上げているので、是非とも参照いただきたい。

<世界初か!? Beagle kickが、768kHz/32bit整数のハイレゾ楽曲「SUMMER VIBE」をOTOTOYほかで販売開始>
http://www.stereosound.co.jp/news/article/2017/09/19/60665.html

<同人音楽初の768kHz/32bit超ハイレゾレコーディング・プロジェクトに密着。作られたのは生演奏より生々しい驚愕のサウンド>
http://www.stereosound.co.jp/review/article/2017/08/10/59345.html

ハイレゾの器を使いこなすまで技術や感覚を高める

──ハイレゾの可能性を追い続けているお二人ですが、2ndアルバム『MIRACLE』のコンセプトはなんでしょうか。

和田 もちろん、ハイレゾの探求です。たとえば新しいフォーマットで録るとか、ハイレゾの表現を引き出す新しい試みを行なうことが、Beagle Kickのコンセプトそのものです。『MIRACLE』収録曲で挙げると、「Wonderful World(Solo Piano version)」のホールでのソロピアノ収録、同じくホールで編成を増やしてジャズカルテットをDSDのマルチで録音した「Moment 4 Autumn」など、2015年発売の1stアルバム『BRAND NEW KEYS』を作った頃にやりたくても出来なかったこと、その後新たにやってみたいと思ったことを積み重ねました。

画像: 「Moment 4 Autumn」のレコーディングの模様。ホールを貸し切って、DSD 5.6MHzでの一発録音を実施

「Moment 4 Autumn」のレコーディングの模様。ホールを貸し切って、DSD 5.6MHzでの一発録音を実施

橋爪 活動を始めた頃から『BRAND NEW KEYS』の頃まで、手探り状態だったんですね。ソフトもPCMのハイビットレートに対応していなかったし、プロ用のハードも選択肢がほとんどない状況でした。その中でも、ハイレゾの面白い取り組みとかより深い部分を、好奇心と遊び心に任せて探っていきました。

和田 『MIRACLE』で6曲目に収録した「SUMMER VIBE」の768kHz/32bit整数での録音も、探求心に動かされた挑戦の1つでしたね。768kHz/32bit整数で録音できる機材が出てきて、やらずにはいられないって感じで。ミックスをリアルタイムにしながらのスタジオでの1発録りだったんですが、プレーヤーも我々エンジニア側も失敗が許されない。あれから一気にノウハウが貯まり、スタジオの機材も増強しました。

画像: 和田がチャレンジングな作品と語った「SUMMER VIBE」の収録時の様子。同人音楽で初めて768kHz/32bit整数で曲をリリースしたのも彼らBeagle Kickだ

和田がチャレンジングな作品と語った「SUMMER VIBE」の収録時の様子。同人音楽で初めて768kHz/32bit整数で曲をリリースしたのも彼らBeagle Kickだ

橋爪 録音クォリティも上がって、『BRAND NEW KEYS』の頃は96kHz/32bit-float で録っていたのが、今ではPCMでの録音は192kHz/32bit-float になりました。つまり、現時点でのProToolsでの最大値です。

和田 技術的にもパワーアップしていまして、『BRAND NEW KEYS』の時には反省点がいっぱいあったんです。それを克服して、さらに上の次元でいい音を作ろうとして挑んだのが『ミラクル』になります。

──ハイレゾをいい意味でおもちゃにしていて、楽しみながら「これをやったらどうなるんだろう」って視点で音作りをしているように思います。

和田 商業的な作品だと、クライアントさんの要望に合わせつつ、より多くの人に受け入れられるように、保険をかけがちですからね。その点、同人音楽は自分がやりたいことを追究できます。

橋爪 もう一つ、ここで試行錯誤できることが、我々の技術力や音に対する感度の向上にもつながっているんです。なので、『BRAND NEW KEYS』を作った当時、最高の音だと思っていたものが、今になって聴くと「あれ、こんなに物足りなかったっけ?」と感じることもあります。

和田 そうですね。ここでのチャレンジが、後の音作りに活きていて本業の楽曲制作にも還元しています。また、ミックスの技術的な面で、これまでハイレゾの大きい器を使い切れていなかったのが、『MIRACLE』では器いっぱいまで音を収められるようになってきたな、と感じています。

──それはどういう感覚なのですか?

和田 私を含めて、多くのエンジニアは「この音をこうすれば、こう聴こえるだろう」という感覚を持っています。しかし、それはCD制作を前提にした48kHzや44.1kHzのものが主で、それを単純にハイレゾに当てはめられないんです。だから、感覚をそのままに単に高周波数、高ハイビットレートで作っても、フォーマットの音になじみにくい。

橋爪 その感覚を捨てて、ハイレゾ用の感覚をゼロから作り上げていく必要があるんです。

和田 慣れないうちは違和感そのものですが、「ハイレゾでやる!」と決めて取りかかっているので、感覚を新たに構築しながらできました。

──自分の感覚を再構築するということで、それこそ挑戦ですね。今までの感覚が狂ってしまう、という恐怖はなかったのですか。

和田 それはゼロではないのですが、いい面の方が多かったので気になりませんでした。たとえば最終的に44.1kHzの音源を作る場合、ハイレゾ音源で収録して、ハイレゾ制作で培った感覚でEQ(イコライザー)調整すると、44.1kHzに変換しても以前より良い音にできるようになっています。また、44.1kHzの音源をEQ調整するにしても、このノウハウを活かすことで、最初から意図通りの音を作れるんです。ちょっと前まで、「ロックにはハイレゾよりも48kHzが合っている」みたいな話があったと思うのですが、それはフォーマットに依存しているという事だと思います。

橋爪 和田さんが作曲家であることも大きいですね。ハイレゾならスタジオで作った音をそのままユーザーに届けられる。だから、作曲家として曲で表現したいこと、エンジニアとして演奏や音で届けたいことの両方を考えて細部まで落とし込めますから。

同人音楽初のMQA-CDもハイレゾ作品のひとつ

──お二人のハイレゾにかける想いがよく分かりました。『MIRACLE』はハイレゾ版(WAV/FLAC)に加えて、おそらく同人音楽で初めてMQA版、MQA-CDも発売されました。この意図はどこにあるのでしょうか。

橋爪 2016年にあるイベントでMQAに出会いました。担当者とやりとりをするうち、和田と二人で試聴室に招待してくれて、じっくり聴く機会を得ました。やりとりの中で担当者に我々の楽曲サンプルを送っていたのですが、その音源からこっそりMQA版を用意してくれていたんです。その時聴いたMQAのサウンドに感銘を受け、以来ずっとMQAで配信したいと考えていまいました。

和田 MQAは時間軸の精度が高く、明らかに音がタイト。スタジオで聴いていた本来の音に近い感覚でした。なのに、加工感が極めて少ない。これは面白いと思いましたね。

──MQA-CDは、普通のCDプレーヤーで再生でき、対応プレーヤーであれば、MQAデコードされてハイレゾとして聴ける媒体です。オーディオ好きしか知らない存在だと思いますが、今回MQA-CD版を作ったのにはどんな狙いがあるのですか。

橋爪 MQA-CDを作ったのはハイレゾの形の1つだと考えているからです。MQA-CDをデコード再生し、ハイレゾで聴ける機器がまだまだ整っていないのは承知しています。しかし、普通のCDプレーヤーで再生してもMQAの特長である、時間軸の精度が高いサウンドが楽しめるんです。CDであっても、スタジオで聴く音に近い音を楽しんでほしいとの想いがここにあります。

和田 それに、将来デコード再生ができる機器が増えたときに、手元にある『MIRACLE』のMQA-CD版で試してほしいという願いも込めています。

──ありがとうございました。続いて試聴レビューに移りたいと思います。

試聴レビュー編に続く(5月29日公開予定)

【Information】

『MIRACLE』のリリースを記念して、東京・秋葉原のオリオスペックにて、和田貴史と橋爪徹によるトークイベントが開催される。各フォーマットの聴き比べ、サウンドや制作裏話を二人が語り尽くす。興味がある方は、振るってご参加を。

●開催日時:2019年5月18日(土)14:00~16:00
●場所:オリオスペック
●住所:東京都千代田区外神田2-3-6 成田ビル2F
●定員:15名程度
●申し込み方法:
メール( pcaudio@oliospec.com )または電話 03-3526-5777 にて申し込み受付中。
また、Beagle Kickサイト(http://beaglekick.com/)からも申し込み可能
※先着順にて受付(定員になり次第受付終了)

●イベント告知URL

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