アカデミー賞録音賞を受賞したポール・マッセイ、ティム・キャヴァギン、ジョン・カサーリ、音響編集賞を受賞したジョン・ワーハースト、ニーナ・ハートストーンらによって作り上げられたドルビーアトモス・ミックスこそが『ボヘミアン・ラプソディ』本来のサウンドであることは承知しつつ、ここではラスト21分の「ライヴ・エイド」をBBCモニタースピーカーによる“本気”の2chシステムで再生してみた。使用したのは、スターリングブロードキャストのLS3/6というスピーカーである。

 英サマセット州に工房を構えるスターリングブロードキャストの創立は2000年。オーナーのダグ・スターリングは長くLS3/5aコンパクトモニターの修理をしてきた人で、生産中止となったKEFのLS3/5aユニットの在庫をすべて買い取り、自社ブランドのLS3/5aとして発売したことがはじまりだという。正式にBBCのライセンスを獲得しており、ユニットの在庫がなくなった現在は専用設計ユニット搭載のLS3/5aV2を主力機としている。

 今回使用したLS3/6は、BBCモニターとしては現行品で唯一の3ウェイモデル。僕は自宅でハーベスHLコンパクトを使っているので、見た目的にも出自的にもこのスピーカーには聴く前から親近感ありありだったのだが、サイズ感はひと回り大きく、格子状に無垢材が配列されたスピーカースタンドの威容も相まって55型テレビが小さく見えるほどの存在感を放っている。ここではオクターブの5極管(6550)プッシュプル構成プリメインアンプ、V40SEと組み合わせて聴いた。

画像: ▲︎今回の取材では、BBC系モニタースピーカーを真空管アンプで鳴らすというコンセプトでドイツ・オクターブV40SE(¥680,000+税)を使った。5極管6550をプッシュプルで用いて最大出力50W×2の高出力を安定的に発揮する●問合せ先:フューレンコーディネートTEL 0120-004884

▲︎今回の取材では、BBC系モニタースピーカーを真空管アンプで鳴らすというコンセプトでドイツ・オクターブV40SE(¥680,000+税)を使った。5極管6550をプッシュプルで用いて最大出力50W×2の高出力を安定的に発揮する●問合せ先:フューレンコーディネートTEL 0120-004884

バンド演奏の熱量を前面に浴びる“近さ”が魅力

 ライヴ・エイド当日のクイーンの演奏は24トラックのマルチテープで残されており、本作ではそれをベーシックトラックとしながら、フレディ・マーキュリー役のラミ・マレック本人の歌声や吐息やリップノイズ、300人のエキストラによるコール&レスポンス、20世紀フォックスが本作のために立ち上げた企画「putmeinbohemian.com」で採取された世界中のファンの歌声、ロンドンのO2アリーナで収録された2万人のハンドクラップなどをオーバーダブ。ロンドンのトゥイッケナム・スタジオでファイナルミックスが行なわれている。ドルビーアトモス再生では、それらの細かなトリートメントを隅々まで味わいながら、オーディエンスのひとりとして現場を追体験するような楽しさがあるが、2ch再生では各パートが渾然一体となったバンド演奏の熱量が何よりも前面に出てくるので、ステージの近くでかぶりついて観ているような“近さ”が魅力だ。

 明るすぎず、音像の陰影を積極的に再現するLS3/6なので、「ボヘミアン・ラプソディ」を歌い出す直前の静寂には背筋の伸びるような緊張感が走る。そして「RADIO GA GA」のシンガロング、フレディとオーディエンスによる“AY-OH”のコール&レスポンスなどは広がりよりも厚みを印象的に聴かせ、アトモス再生とは明らかに違う、それでいて妥協策でもない2chならではの堂々としたサウンドステージを再現してみせる。内振りに設置することでよりヴォーカルのフォーカス感は増すが、スタジアムのスケール感を優先したい向きには対面設置がおすすめだ。

 アトモスじゃないと『ボヘミアン〜』を観たことにはならない、という意見に反対する気はないけれど、本気の2chシステムだからこそ楽しめる『ボヘミアン〜』もある。LS3/6にそう諭されたような、大満足の視聴体験だった。

画像: ▲スタンドはStirling Broadcastの輸入元が扱っている、アコースティック・デザイン製のAD-36を使用した。無垢木を格子状に配列した美しい仕上げだ。付属スパイクを4隅に取り付けた場合の高さが51mmでLS3/6とよくマッチングする

▲スタンドはStirling Broadcastの輸入元が扱っている、アコースティック・デザイン製のAD-36を使用した。無垢木を格子状に配列した美しい仕上げだ。付属スパイクを4隅に取り付けた場合の高さが51mmでLS3/6とよくマッチングする

総括

英国ロックの枠を軽々飛び越えたスケール感たっぷりのステレオAV再生

英国ロックのアイコンであるクイーンを聴くならBBCモニターで、というシンプルな発想で聴いてみたスターリングブロードキャストLS3/6だが、英国ロックという限定的な枠など必要のない包容力の高さで『ボヘミアン〜』の世界観をスケール感たっぷりに再現してくれた。その音色や質感、響きの豊かさは、妥協ではなく前向きな選択肢として「ステレオAV」に取り組みたい人に大きな満足感を与えてくれるに違いない。

画像: 英国ロックの枠を軽々飛び越えたスケール感たっぷりのステレオAV再生

 

画像: 『ボヘミアン・ラプソディ』特集⑤ スターリングブロードキャストLS3/6で2ch AV再生<“本気のステレオAV”に大満足>

STIRLING BROADCAST
SPEAKER SYSTEM

LS3/6
¥750,000(ペア)+税
●型式:3ウェイ3スピーカー・バスレフ型●使用ユニット:19mmドーム型トゥイーター、27mmドーム型ミッドレンジ、220mmコーン型ウーファー●クロスオーバー周波数:3kHz、13kHz●出力音圧レベル:87dB/W/m●インピーダンス:8Ω●寸法/質量:W300×H630×D300mm/18.5kg●カラリング:ローズウッド、ゼブラーノ、エボニー(以上、¥800,000ペア+税)ウォール・ナット(写真)、チェリー(以上、¥750,000ペア+税)●専用スタンド:アコースティック・デザインaD-36(¥90,000ペア+税)●問合せ先:㈲ワイエスティー☎045(664)0744

PROFILE
BBC(英国放送協会)は、さまざまな放送用モニタースピーカーをKEFやスペンドール等と共同で設計開発し、70年代からBBCモニターシステムとして各社のライセンス生産をメーカーに与え、高い人気を誇っていた。Stirling Broadcast社のオーナーの、Doug Stirlingは数多くのBBCモニターの修理技術者という経歴からの知見により、多くのBBCモニターの復刻モデルをリリースしている。LS3/6は、同社現行では唯一となる3ウェイスピーカーで、22cmウーファーと27mmトゥイーターを3kHzのクロスオーバーでつないだ2ウェイを軸に、13kHz以上17kHzまでの帯域を19mmドーム型ユニットで受け持たせている(編集部)

 

そのほかの使用機器
●有機ELディスプレイ:パナソニックTH-55FZ1000●UHDブルーレイプレーヤー:パナソニックDP-UB9000(Japan LImited)●プリメインアンプ:オクターブV40SE

This article is a sponsored article by
''.