フランスの老舗ブランドの5.1chスピーカーが新上陸

 ロック系の音ならば英米系のスピーカーがお似合いだろうけれど、このエリプソンはフランスの老舗オーディオブランドだ。しかし輸入元が今回の企画にこのPrestige Facet(プレステージファセット、以下PF)シリーズを推奨してきたからには自信があるはずだ。実際に聴いてビックリであった。

 エリプソンのPrestigeスピーカーは1975年以来と歴史は長い。それが2016年に最新の性能水準を与えた新モデル、PFシリーズを発表。今回は5.1 ch構成で視聴したが、サラウンド用とした小型のPF 8B、フロアー型のPF 24Fをそれぞれ2chステレオとしても試聴した。

 PF 8Bは17cm径のペーパーコーンウーファーと25mmシルクドーム型の2ウェイ、リアバスレフ構成。クロスオーバーは2.7kHz。各ユニットの周囲に切り子風の切断面を見せるシリコンリングが配置されているのがこのシリーズの特徴。「ファセット」は宝石の立体面加工にちなんだ呼称だ。バッフル面の音響反射を抑制して応答性を向上させるねらいだ。両ユニットとも振動板は初動感度の点で有利なロールエッジであり、特殊なものではない。ウーファー中央にはアルミニウム製フェイズプラグを装備して位相的な整合性を改善。またトゥイーターは音圧をかせぐために深く落とし込むわけではなく、瞬時応答性を重視しているようだ。底部はゴム脚だが、着脱可能な付属の基台(ベース)に乗せて使えるようになっている。

 PF 24Fは4ユニット、3.5ウェイのバスレフ方式フロアースタンド型。21cm径ペーパーコーンウーファー2本による低域は、600Hz以下担当と350Hz以下担当とに分担するスタガー設計だ。スコーカーはフェイズプラグを装着した17cm径ユニット。3.8kHz以上を受け持つトゥイーターは25mm径シルクドーム型。本機にも基台が同梱し、付属のスパイク使用も可能。

ブックシェルフ型PF 8Bをチェック。AVでは2.1ch構成が好適

 PF 8Bのステレオ使用はシネスコ用123インチスクリーンの両端に設置したので、やや間隔が広い印象。つまり味は薄めに聴こえるのだが、ボサノヴァなどすこぶるなめらかな声質で伴奏の響きとよく溶け合う。低域はやや膨らむものの、ゆったりしたシンコペーションがけだるい気質を醸し出し、これはやっぱりフランスの音にちがいない。これで『男と女』など視聴しだしたら最後まで観てしまいそうな官能美だ。それに英語の歌がなめらかでフランス語風に聴こえるのも面白い。ただし鳴りものの鮮度は格別で過渡特性はまちがいなく優秀だ。ケルテス指揮ロンドン交響楽団のCD『ハーリ・ヤーノシュ』第4曲は、葬送行進曲部分のアルトサックスが哀感含みの謡曲風でハマる。しかしUHDブルーレイ『ボヘミアン・ラプソディ』の2ch再生となるともっと鮮烈さや迫力がほしくなる。

 ならばL/Rの間隔を狭めるとか内振り角を深くするという設置法が有効だろう。しかし今回はバイワイヤリング用端子の高域側にスピーカーケーブルを接続替えしたところ大正解。みちがえるように中高域のキレ味と高鮮度の描写力が向上したのだ。声の明快さやリズムの活気が向上するし、男声ヴォーカルの胸板の響きが反応よく聴こえる。伴奏も鳴りものだけでなくウッドベースまで彫りが深く躍動するようになった。『ボヘミアン・ラプソディ』もフレディの高唱が時に耳孔の空洞を共振させるわけで、なかなか明敏な応答性が楽しめる。

画像: ▲Presige Facet 8Bを使って2chステレオ再生で取材をスタート。シリーズは本機を含めてバイワイヤリング接続対応のスピーカー端子を備えている。当初はまず低域側端子に接続していたが、高域側端子につなぎかえた状態も確認(写真)。今回の環境では、後者の接続の印象がよかったため、以後の視聴は高域側端子での接続を基準としていた。シングルワイヤリング接続の場合は、両者を聴き比べてみるのが使いこなしのポイントのひとつとなる

▲Presige Facet 8Bを使って2chステレオ再生で取材をスタート。シリーズは本機を含めてバイワイヤリング接続対応のスピーカー端子を備えている。当初はまず低域側端子に接続していたが、高域側端子につなぎかえた状態も確認(写真)。今回の環境では、後者の接続の印象がよかったため、以後の視聴は高域側端子での接続を基準としていた。シングルワイヤリング接続の場合は、両者を聴き比べてみるのが使いこなしのポイントのひとつとなる

 ただし大画面鑑賞なのでもっとスケール感が欲しいのでサブウーファーのPF SUB10を加えて2.1chとして視聴。チャプター13の「ウィ・ウィル・ロック・ユー」など、足踏みの質量感が増し、コンサート場面になるとホールの大きな響きも感じられて結構な効果だ。またチャプター18の雨の場面は、手前だけでなく遠くまでしっとりと降り込む様子が分かり、車のエンジン音が浮き出てきて悲劇性が補強されている。これは小スペースで充実した音を得たい場合に有効な構成だ。

画像: ▲シリーズではサブウーファーを2種類用意している。今回は上級モデルのPrestige Facet SUB 10を用いた。ステレオL/R入力用端子のL側がLFE用接続端子も兼ねる。まず、Presige Facet 8Bと本機を組み合わせた2.1ch再生をトライした。低音の迫力が大きく向上、シンプルなスタイルながら効果は抜群だった

▲シリーズではサブウーファーを2種類用意している。今回は上級モデルのPrestige Facet SUB 10を用いた。ステレオL/R入力用端子のL側がLFE用接続端子も兼ねる。まず、Presige Facet 8Bと本機を組み合わせた2.1ch再生をトライした。低音の迫力が大きく向上、シンプルなスタイルながら効果は抜群だった

雄大なスケール感が見事。PF 24Fの緻密さに感激

 フロアー型のPF 24F単独では、労せずして雄大なスケール感が得られるし、情報密度が高くなりステレオ再生でも高さや奥行感が自然体で再現される。『ハーリ〜』中間部の強烈な終止音符など、身体ごと音圧を浴びて浮遊感を覚えるほどだ。ただし声はやはりフランス流になめらかで緻密な描写であり、鮮烈な高唱や叫びが要求されるロック系ではひと工夫したくなる。

 そこでスピーカーケーブルを高域用端子に接続すると、PF 8Bの場合よりも明敏でエネルギッシュな音に変化して期待通りだった。音楽ソフトは表現域が拡大しヴォーカルの声音が実に豊富。オーケストラの総奏の大迫力がきれいな分離感を維持しながら再現されて感動ひとしお。

 『ボヘミアン・ラプソディ』は、チャプター4、クイーンの前身バンドであるスマイルのライヴ場面。ピッキングが刺激的なギターや近距離であることを彷彿とさせるドラムセットの音圧感。そしてフレディの歌はまだ青い突っ張りぶりが生々しい。チャプター13の足踏みは、板が抜けそうなほどの弾力感と飽和感、そしてホール全域が鳴り渡る様子が素晴らしい。

スピーカーを意識させない5.1ch再生の高い完成度

 5.1ch構成ではセンターチャンネルにPF 14Cを起用。スピーカーケーブルはすべて高域側端子に接続。

画像: ▲︎次にサラウンド再生にトライ。フロアースタンディング(トールボーイ)型モデルのPresige Facet 24Fをメインスピーカーに使っての5.1ch再生だ。サブウーファー、Prestige Facet SUB 10は、センタースピーカーとフロントLスピーカーの間にセットした

▲︎次にサラウンド再生にトライ。フロアースタンディング(トールボーイ)型モデルのPresige Facet 24Fをメインスピーカーに使っての5.1ch再生だ。サブウーファー、Prestige Facet SUB 10は、センタースピーカーとフロントLスピーカーの間にセットした

 これはアトモス音声の整音がよく活かされて高さや背後方向の奥行感が良好。スマイルの小さなクラブでのライヴは熱気が充満し観客の人数が増えて臨場感が格別。楽器もフレディの叫びも尖ったまま鼓膜を慰撫するし、足踏みの一大饗宴場面は確かに足元をどよもす。そして雨の場面。雨音が画面の手前からずっと奥まで降りしきるわけで、失墜感を補強するエンジン音の雄弁さともども高品位な効果音による演出力が明らかになった。ライヴ・エイド場面は、はるか彼方の歓声や演奏音の反響が明瞭。ギターの鋭利な金属光沢を伴なううなりもいっそうテンションを増している。またリズム隊の強烈な音圧は地を這う重厚感がすこぶる壮快。そしてフレディの優しげな朗唱に鋭利な高唱、ハードロック系の鋭い語勢などスピーカーの存在を意識させないライヴ感を堪能できた。このプレステージファセットシリーズはフランス流の現代オーディオ最適化宣言として賞賛を呼ぶだろう

画像: ▲︎5.1ch再生時には、サラウンドスピーカーにPresige Facet 8Bを用いた。基本的に同種のユニットを用いたシリーズでのサラウンド再生は、音のつながりが抜群。5.1ch再生でも音の移動感、空間再現など充分に味わえた

▲︎5.1ch再生時には、サラウンドスピーカーにPresige Facet 8Bを用いた。基本的に同種のユニットを用いたシリーズでのサラウンド再生は、音のつながりが抜群。5.1ch再生でも音の移動感、空間再現など充分に味わえた

総括

エネルギッシュかつ表現の幅が広い。中高域ユニットの余裕がすべてに効く

フランス流のなめらか唱法とロック系の強烈シャウト唱法を高水準で両立。バイワイヤリング端子の高域側接続でこれほどエネルギッシュとなりしかも表現の幅が広くなるのは珍しい。中高域ユニットの表現域にゆとりがあり、ネットワークで音を作り過ぎていないからだろう。最後に視聴室常設のトップスピーカーを使ってアトモス構成でも聴いたが、無限遠からの軌跡を示す大スケール三次元音場は臨場感酔いをもたらすほどであった。

画像: エネルギッシュかつ表現の幅が広い。中高域ユニットの余裕がすべてに効く

 

画像: 『ボヘミアン・ラプソディ』特集③ 仏エリプソンの5.1chスピーカーに仰天<強烈な音圧で臨場感抜群>

ELIPSON
SPEAKER SYSTEM

Prestige Facet 24F
¥300,000(ペア)+税
●型式:3.5ウェイ4スピーカー・バスレフ型●使用ユニット:25mmドーム型トゥイーター、170mmコーン型ミッドレンジ、210mmコーン型ウーファー×2●クロスオーバー周波数:350Hz、600Hz、3.8kHz●出力音圧レベル:93dB/W/m●インピーダンス:6Ω●寸法/質量:W274×H1138×D383mm/28.1kg●カラリング:ブラック(写真)、ホワイト、ウォルナット

Prestige Facet 8B
¥100,000(ペア)+税 ※スタンド別売
●型式:2ウェイ2スピーカー・バスレフ型●使用ユニット:25mmドーム型トゥイーター、170mmコーン型ウーファー●クロスオーバー周波数:2.7kHz●出力音圧レベル:91dB/W/m●インピーダンス:6Ω●寸法/質量:W230×H368×D348mm/9.3kg●カラリング:ブラック(写真)、ホワイト、ウォルナット●備考:写真のスタンドは視聴室常設のスタンド(J1プロジェクト/生産終了)

Prestige Facet 14C
¥73,000(本)+税
●型式:2ウェイ3スピーカー・バスレフ型●使用ユニット:25mmドーム型トゥイーター、170mmコーン型ウーファー×2●クロスオーバー周波数:3kHz●出力音圧レベル:93dB/W/m●インピーダンス:6Ω●寸法/質量:W624×H236×D275mm/14.7kg●カラリング:ブラック(写真)、ホワイト、ウォルナット

Prestige Facet SUB 10
¥120,000+税
●型式:アンプ内蔵サブウーファー・バスレフ型●使用ユニット:260mmコーン型ウーファー●アンプ出力:250W(最大)●接続端子:LFE入力1系統(RCA)、ステレオ音声入力1系統(RCA)●寸法/質量:W405×H430×D470mm/23.3kg●カラリング:ブラック(写真)、ホワイト、ウォルナット●問合せ先:フューレンコーディネートTEL 0120-004884

 

PROFILE
1938年創業、1951年に現在のELIPSON(エリプソン)と改名したフランスの老舗オーディオブランド。昨年手頃で使いやすいアナログプレーヤーOmega100シリーズで日本に上陸した。同社はスピーカーメーカーとしてのキャリアも長く、今回紹介するPresige Facet seriesで本格的なスピーカー製品の日本での展開を始める。本シリーズは元々、1975年に登場したロングセラー製品群で、2016年に最新のFacet(ファセット)としてリリースされたものだ。カスタムメイドのユニットを高品位なクロスオーバーに組み合わせて、ブレーシング構造を組み込んだキャビネットにマウントするというのが共通している。ラインナップにはドルビーイネーブルドスピーカーも用意されている(編集部)

 

そのほかの使用機器
●D-ILAプロジェクター:JVC DLA-V9R●スクリーン:スチュワート スタジオテック130G3(123インチ/シネスコ)●UHDブルーレイプレーヤー:パイオニアUDP-LX800●AVセンター:デノンAVC-X8500H●オーバーヘッドスピーカー:イクリプスTD508MK3×6

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