NHKでは、来る2月10日(日)午後7時〜午後7時40分に、BS 8Kのドキュメンタリー「深海の大絶景 8Kが見た海底1300mの秘境」を放送する。

 これは、NHKと国立研究開発法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC)が協業した、世界初の8Kによる深海撮影プロジェクトで実現したものという。その放映に先立って、1月末にマスコミ向け試写会が開催された。

画像: 無人探査挺「かいこう」と司令船 (c)NHK

無人探査挺「かいこう」と司令船 (c)NHK

 当日は、8K放送用の素材を使い、NHK放送センターの421オーディションルームのシステムで8K+22.2chの環境で再生された。

 プロジェクターはパナソニックの4K DLP機を4台使ったブレンディング方式で、スクリーン上に8K映像を再現している。なお「深海の大絶景〜」はHDR(HLG方式)で仕上げられており、当日もHDRで上映していたそうだ。

 今回の番組についてNHK 8K制作事務局長の落合 淳氏は、「4年間かけて準備をしてきた成果です。視聴者の皆さんに、実際に海に潜って海底を観ているような体験を、8Kでしていただける番組だと思います」と説明してくれた。

 今回の撮影は無人探査艇の「かいこう」で行なっている。まず、かいこうに搭載できるサイズの8Kカメラの選定から始まり、海上の指令船からのコントロールがスムーズにできるかなどの問題をひとつひとつクリアーしていったという。

 具体的には3000mの深さの水圧に耐えられる容器を作り、その中に日立国際製の8Kカメラを収納した。さらに撮影した8Kの映像データを10km以上のファイバーケーブルを使った光伝送で司令船に送らなくてはならず、これがリアルタイムに正しく伝送できるかの検証も必要だったそうだ。

画像: 8Kカメラを格納する耐圧容器を新規に作っている (c)NHK

8Kカメラを格納する耐圧容器を新規に作っている (c)NHK

 撮影現場には、伊豆小笠原諸島の水深1300mの海底が選ばれた。ここには300度の熱水がジェットのように噴き上がる「熱水噴出口」が並び、硫化水素など猛毒の物質も含まれるエリアだ。

 そこには危険なはずの熱水に群がるように集まる生き物たちが生息している。これらは硫化水素からエネルギーを作り出す特殊な細菌を体内に宿し、生息していると考えられている。40億年前、地球に生命が誕生した環境もこうした場所ではないかと言われており、研究者注目のスポットだそうだ。

 JAMSTEC海洋工学センター主任技術研究員の石橋正二郎氏は、「これまではHD(2K)カメラしかなく、しかも照明が当たる範囲も限られていました。しかし今回はLEDライトを使い、広い範囲で8Kの明るく鮮明な映像が撮影できています。この深さの海底を風景として捉えたのは世界初です」と担当者としての苦労と感動を語っていた。

 そのLEDライトも、深海を正しく照らせるように地上用とは赤色光のバランスを変え、さらに赤外線等が届かないためタイマーで点灯する仕組を採用するなど、様々な苦労があったようだ。なお今回は広い範囲を照らせるようこの照明を3基使っているが、どこに照明を置くかの操作もたいへんだったようだ。

画像: 「ビッグチムニー」と呼ばれる深海の絶景ポイント (c)NHK/JAMSTEC

「ビッグチムニー」と呼ばれる深海の絶景ポイント (c)NHK/JAMSTEC

 同じくJAMSTEC海洋生物多様性研究分野主任技術研究員 吉田尊雄氏は、「これまでのHDの映像では画像が粗く、どうしても確認程度にしか使えませんでした。熱水噴出口の近くに生息しているシチヨウシンカイヒバリガイについても、生きた貝なのか、死んでいるのかまではわからなかったのです。そのためサンプルを多めに採取していました。しかし8Kならそういった点まではっきりわかりました。これからの調査では、8Kじゃないと……。もうHDには戻れません」と、研究者らしい感想を語ってくれた。

 番組では、潜水艇のパイロットの間で「ビッグチムニー」と呼ばれる深海の絶景ポイントも紹介された。これは高さ20mを超える熱水噴出孔で、その側面には無数の深海生物が群生している。8K映像では、それらの生き物ひとつひとつの細部まで再現され、しかも熱水による水のゆらぎまでしっかり判別できた。

 この番組を担当したNHKのディレクター廣瀬 学氏は、「8Kはディテイルの再現はもちろん、細かな生物の動きまできちんと撮影できるので、今回のプロジェクトには最適でした。深海の撮影も可能ということも分かりましたので、これが8Kの一里塚になってくれればと思います」と語った。

 今回の映像については「有人探査艇で窓から観ている映像に近い。本当にゴージャスです」(吉田氏)、「1300mの深さの映像をこれほど明るく鮮明な映像で観ることはありません」(石橋氏)と、プロのふたりも絶賛していた。ぜひあなたも8Kによる“深海の絶景”を体験していただきたい。

画像: 左から、NHK 8K制作事務局長の落合 淳氏、JAMSTEC海洋工学センター主任技術研究員の石橋正二郎氏、JAMSTEC海洋生物多様性研究分野主任技術研究員の吉田尊雄氏、NHK ディレクターの廣瀬 学氏

左から、NHK 8K制作事務局長の落合 淳氏、JAMSTEC海洋工学センター主任技術研究員の石橋正二郎氏、JAMSTEC海洋生物多様性研究分野主任技術研究員の吉田尊雄氏、NHK ディレクターの廣瀬 学氏

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