先日募集告知をお知らせした通り、クリプトンの漆塗りスピーカー「KX-0.5UR/UB」「KS-9Multi U」を使った試聴会「漆の奏」が、先週の金曜日(1月25日)に四谷のKRIPTONラボで開催された。

 平日の午後の開催にも関わらず、漆塗りスピーカーの音を体験してみたいという熱心な音楽愛好家が集まり、和やかな雰囲気の下で試聴会がスタートした。

画像: 会場となったクリプトン・ラボ

会場となったクリプトン・ラボ

 まず主催者であるクリプトン オーディオ事業部の田中琢也さんから「漆の奏」について紹介があった。田中さんによると、同社では昨年秋に漆塗りスピーカーの新製品として「KX-0.5U」シリーズを発売した。ただこのモデルはネット販売限定で、店頭展示はない。

 それもあってユーザーから、漆塗りスピーカーがどんな音がするのかを聴いてみたいという問い合わせが寄せられていたという。その声に応えて開催されたのが「漆の奏」というわけだ。

 続いて同社オーディオ事業部長で、スピーカーの音決めを担当している渡邉勝さんから製品についての説明があった。

 「スピーカーは、ピアノフィニッシュか木目仕上げかで音が違います。突き板を変えると音が変わりますし、ピアノフィニッシュにすると極端に変化します。もちろん漆塗りでも音は変わります。

 弊社が初めて漆塗りのスピーカーを発売したのは、2010年のKX-3Uシリーズでした。ブックシェルフのKX-3Pをベースに、日本を代表する漆匠の加陽舗【能作】製による漆塗りエンクロージャーと、誉田屋源兵衛製 西陣織絹サランネットを採用したものです。

 一般的に漆の漆器は知られていますが、スピーカーで漆を塗ったものは珍しいでしょう。漆は工芸品に塗るのが普通で、弊社のスピーカーも工芸品を作っている職人さんにお願いして塗っていただいています。

 エンクロージャーに一度漆を塗ってから乾燥させ、それを炭で磨いて平面を出し、さらに重ね塗りをするという作業を5〜6回繰り返します。どうしても手間がかかるので、その分コストもアップしてしまうのです(笑)。

 じゃあどれくらい音が違うかですが、それについては、今日はKX-0.5の通常品である突き板、ポリエステル仕上げと漆塗りを準備しましたので、皆さんに比較試聴をしていただきたいと思います」(渡邉さん)

画像: 試聴機器についての解説をする渡邉さん。今回は右からふたつめのKX-0.5UBとその左隣のKX-0.5の違いを聴き比べている

試聴機器についての解説をする渡邉さん。今回は右からふたつめのKX-0.5UBとその左隣のKX-0.5の違いを聴き比べている

 といった、漆塗りに関する具体的な解説の後、いよいよ待望の比較試聴がスタートした。まずはハイレゾ音源(192kHz/24ビット)のピアノ曲『月の光』を再生する。この曲はクリプトンのHQMストアで配信されていたもので、イタリアの教会でファッツォリ製ピアノを使って録音されたものだ。

 最初はKX-0.5の通常品、続いてKX-0.5UBという順番で試聴を進めた。その際はスピーカーケーブルをその場でつなぎ替えるだけで、プリアンプのボリュウムは一切触っていない。

 その状態で数分ずつ同じパートを再生すると、参加者の一人の呉山尚実さんが、「木目(通常品)も音の粒がはっきり聴こえてきて、充分いい音だと思ったんですが、漆塗りで聴くと、ファッツォリの音が柔らかいのがわかりました。全体に音が広がっているのに、ちゃんと細かいところまで聴こえる、心地いい音です」と素晴らしい感想を聞かせてくれた。

 渡邉さんも、「塗りを加えることで全体的にダンプされてはいるのですが、それでも音が広がってくるのは漆だからです。しかも細かい音まできちんと聴こえていたと思います。

 スピーカー設計の際に、ここまで音を追い込むのはひじょうに難しいんですが、きちんとユニットやネットワークを仕上げて、最後に漆塗りを加えると、情報量まで変わってきます。こういった漆塗りの効果は、スピーカーエンジニアにとっては大きな魅力です」と技術者としての率直な意見を聞かせてくれた。

 続いて女性ヴォーカルを同じくKX-0.5とKX-0.5UBで比較試聴したが、声の響きが大きく変わり、スタジオの反響もよりクリアーに再現された。参加者から声が気持ちよく聴けるという感想が出ると、渡邉さんはとても嬉しそうに説明してくれた。

 「その言葉が聞きたかったんです(笑)。私はスピーカーを設計するときに人の声を基準にしているんです。密閉型の2ウェイ機は人の声が一番出しやすいので、弊社のスピーカーは基本的に2ウェイ構造を採用しています。トップモデルのKX-1000Pも内部に仕切りを設けて、2ウェイ+サブウーファーという構造になっています。

 ここまでこだわっているのは、2ウェイをうまくバランスさせると人の声のつながりが違うからです。個人的にはひとつのユニットに人の声の帯域をすべて受け持たせて、高音はそこに足していく方がいいと考えています。

 人の声が人の声として聞こえないとスピーカーとしては落第じゃないかとまで考えているんです。KX-0.5URで、人がそこで歌っているような錯覚を感じてもらえると嬉しいですね」(渡邉さん)

画像: スピーカーケーブルをつなぎ替える田中さん。今回の試聴でも最低7〜8回はつなぎかえていた

スピーカーケーブルをつなぎ替える田中さん。今回の試聴でも最低7〜8回はつなぎかえていた

 そしてここから参加者の皆さんのリクエストを受けて、それぞれが聴いてみたい曲を体験してもらった。しかもL/Rスピーカーを底辺とした正三角形の頂点で聴くという、理想的な環境でだ。

 都内から参加してくれた鈴木健之さんは、持参CDから有名なクラシックの交響曲をチョイス。導入部の静かな鼓動に続いてトランペットが演奏される。

 両モデルの音を聴いた鈴木さんは、「通常品は音場が奥に引っ込んだように聴こえました。一番の違いは残響音で、通常品ではやや残響音が濁っているような気がしたのですが、漆塗りだと細部まで再現されて、とても華やかな演奏になりました」と、音楽ファンらしい感想を聞かせてくれた。

 渡邉さんによると、「小型スピーカーには厳しい曲ですよね。本来ならもう少し低音の量感が出せるといいんですが、14cmウーファーでは限界があります。おっしゃっていただいた残響音については、エンクロージャーの箱鳴きが大きいと思います。

 スピーカーでは、ユニットと箱の面積は箱の方が大きいので、振動の影響は箱の方が大きくなります。当然余計な響きもつくことがある。しかし漆塗りにすることでそれを抑えてくれると考えています」とのことで、言われてみると確かにその通りかもしれない。

 さらにアメリカ、日本の女性ヴォーカルを3曲続けて再生した。この時一番最後に再生されたのはHQMストアで配信されていた森山良子の「さとうきび畑」で、アナログマスターテープからハイレゾ化(192kHz/24ビット)されたものだ。

 これを聴いた水野 豊さんは、「KX-0.5は通常品でも充分いい音ですが、漆塗りは声の生命力が全然違いますね。漆塗りではテープのヒスノイズまで再現さえているのですが、それがちっとも嫌な音じゃない。むしろ心地いいくらいでした」と語ってくれた。

画像: L/Rスピーカーを底辺とした正三角形の頂点に座ってお気に入りの曲を聴いてもらった

L/Rスピーカーを底辺とした正三角形の頂点に座ってお気に入りの曲を聴いてもらった

 最後に漆塗りスピーカーのもうひとつの提案として、「KS-9Multi U」も紹介された。こちらはUSB DACやパワーアンプを内蔵した小型アクティブスピーカーの「KS-9Multi」を漆塗りで仕上げた限定版だ。

 「KS-9Multiはエンクロージャーにアルミの押し出し材を使っていますが、KS-9Multi Uはそこに漆塗装を加えたバージョンです。会津の工業試験場さんの協力で実現しました」(渡邉さん)

 という説明の後に、女性ヴォーカル曲を再生した。システムはDELAのミュージックサーバーとKS-9Multi/KS-9Mulit UをUSBケーブルでつないで、ハイレゾ音源を再生するという流れだ。USBケーブルを試聴の度につなぎ替えるのは、KX-0.5/KX-0.5UBの時と同じとなる。

 ボリュウムレベルも合わせて聴き比べたが、傾向としてはKX-0.5/KX-0.5UBの印象とよく似ている。漆塗りでは細かい響きまできちんと再現され、音場の見通しがよくなって、さらに空間も広がってくる。

 「最近はデスクトップにスピーカーを置いて、いわゆるニアフィールドで試聴するオーディオファンも増えています。その時に、木のエンクロージャーでは箱鳴りが耳につくこともあるのですが、金属は剛性が高いので気になりません。KS-9Multi Uはそこに漆塗りを加えていますので、さらに静かになっているはずです。ニアフィールドモニターとしてもぴったりだと思います」と渡邉さんから視聴スタイルを含めた提案も。

画像: KS-9Multi U(右)と、KS-9Multi通常モデルのエンクロージャー

KS-9Multi U(右)と、KS-9Multi通常モデルのエンクロージャー

 すると田中さんが、「実はKS-9Multi Uと、漆塗りスピーカーのKX-3Uは、それぞれ2セットしか残っていません。どちらも作るのがひじょうに難しいので、今のところ再生産の予定も立っていません。今日の音を気に入っていただけたら、早めのご注文をお待ちしています(笑)」とすかさずアピールしていた。

 「KX-0.5UR/UBはネット販売限定モデルにしていますが、これにはおおきくふたつの理由があります。ひとつが、量産が難しいことで、特に量販店さんではある程度の在庫がないと扱っていただけません。

 もうひとつが、流通を経由すると価格がもっとアップしてしまうという点があります。なにしろ製造コストがかかっていますので……。クリプトンでは、今日のような試聴会をこれから定期的に開催していきますので、漆塗りスピーカーが気になる方はぜひ音を体験しに来て下さい」(田中さん)

 以上で1時間半に渡る「漆の奏」は終了した。今回参加してくれた皆さんは、みんな通常モデルと漆塗りの音の違いに納得してくれたようで、終了後もスピーカーをじっくり眺めたり、使いこなしについて渡邉さんに質問したりと、たいへん盛り上がっていた。以下で、インタビューに応じてくれた皆さんの感想を紹介しておきたい。

呉山尚実さん(写真左)
 お仕事はピアノの調律師という呉山さんは、漆塗りスピーカーというものに興味があって参加してくれた。「漆塗りスピーカーは、女性ヴォーカルやヴァイオリンの高音がまろやかで、ライブ会場の臨場感もとてもリアルでした。塗装の違いだけで、音がこんなに変わるということは、音楽関係に関わる者としては驚きでした」と嬉しい感想を。

鈴木健之さん(写真中央)
 鈴木さんはご自宅に、電源環境にも配慮したオーディオシステムを構築しているとのこと。愛用のスピーカーも漆塗りで仕上げたカスタム品とのことで、今回はKX-0.5Uシリーズの完成度をチェックにみえた様子。「漆塗りのスピーカーは、低音の締まりがよくなって、それが音場再現すべてに影響しているな、と感じました。全体的に違う音、クリアーなサウンドになり、ベースもしっかりしてくる。そんな印象です。この違いは予想以上です」とのことでした。

水野 豊さん(写真右)
 ご自宅のオーディオシステムでは、女性ヴォーカルなど色々な音楽を楽しんでいるという水野さん。「キャビネットの塗装だけでこんなに音が変わるということを、きちんと体験できたのは嬉しかったです。KX-0.5URの音もよかったのですが、値段を考えるとKX-3P IIも買えてしまう。どちらがいいのか、悩ましいですね」と話してくれた。

画像: 漆塗りスピーカーの実力は凄かった!? クリプトンの試聴会「漆の奏」に、熱心な音楽愛好家が集合。その感想は……

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