麻倉怜士さんのCESレポート恒例、メーカー直撃インタビューをお届けする。2019年の第一弾に登場いただくのは、パナソニックの筒井俊治 テレビ事業部長。同社はCES2019のブースでは、自動運転時代を見据えた様々な通信ソリューションや、映像・音響技術を活かしたエンタテインメント体験などを展示している。そしてオーディオビジュアル関連では、4K有機ELテレビ「GZ2000」シリーズの画質が話題を集めている。まずはそのGZ2000がテーマとなった。(編集部)

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画像: TX-65GZ2000を背景に。左がパナソニック テレビ事業部 筒井俊治事業部長

TX-65GZ2000を背景に。左がパナソニック テレビ事業部 筒井俊治事業部長

源流に近いところから、物づくりに取り組んだ

麻倉 今年もお時間をいただき、ありがとうございます。今回は有機ELテレビの「GZ2000」シリーズが話題ですね。

筒井 ありがとうございます。実は展示方法は昨年から変わっていないのですが、今回は予想以上に注目をいただき、嬉しく思っています。

麻倉 GZ2000は4K解像度を持つ有機ELテレビで、「HDR10+」「ドルビービジョン」「ドルビーアトモス」などの多彩なフォーマットにも対応しています。それだけでも注目ですが、画質も良いと観ました。まずはこのGZ2000の開発で、特に力を入れた部分についてお聞かせください。

筒井 GZ2000では初めてパネルメーカーからセルで納品してもらいました。

麻倉 これまでは有機ELパネルはユニットでの供給だったのですね。

筒井 そうです。標準のモジュールだったのですが、今回は絵づくりの基礎から自社で手がけたかったので、パネルはセルの状態で納品してもらい、あとは自社でモジュールや放熱などを含めて作りこみました。

麻倉 T-Con(タイミング・コントローラー)も社内で?

筒井 はい。T-Conも含めてです。確か昨年インタビューしていただいた時に、いつかはそこまで手がけたいとお話ししたと思いますが、それがGZ2000で実現できたわけです。

麻倉 なるほど。その意味ではGZ2000はパナソニックさんの意向がかなり入った製品というわけですね。では絵づくり関連でこだわったポイントはどこでしょう?

筒井 今回は明るさをきちんと再現したかったので、輝度を上げるために色々な配慮を行なっています。暗部と明部の両方をしっかり出したかったのです。

麻倉 それはHDRを正しく再現する、ということでしょうか?

筒井 それも大きな目標です。HDRの表現については、新たに「AI HDRリマスター」を搭載しています。これは、物体をオブジェクトで認識して、それぞれの輝度差、階調をきちんとつけていくという絵づくりです。

麻倉 その効果を再現するためには、ベースのパネルから変わっていかなくてはならないということですね。従来のパネルが標準品だったとすると、今回はそこにどれくらいパナソニックさんが関与したことになるのでしょうか?

筒井 輝度ムラの補正や高輝度にするための調整をしていますので、ざっくり言って半分くらい弊社のノウハウが入っているといえるのではないでしょうか。

麻倉 お話をうかがって、パナソニックさんとして、より源流に近い部分まで自社で手がけたいという思いがあるのだということを強く感じました。以前から、パネルメーカーに技術者を派遣するといった取り組みをされていましたが、その成果もでてきているのでしょうか?

筒井 はい。共同で改良を進めています。弊社がプラズマで培った、熱を抑える技術や輝度ムラを補正する技術が使えていると思いますし、焼き付きを抑えるノウハウも入れています。

画像: TX-55GZ2000

TX-55GZ2000

「ドルビービジョン」「HDR10+」と機能もてんこ盛り

麻倉 発表会で画質をチェックしましたが、先ほどお話にあった通り、去年モデルに比べてかなり明るくなったなぁというのが第一印象でした。

筒井 HDRの再現性をかなり強化しているので、そう感じられるかもしれません。しかし単に明るくするだけではなく、コントラスト感、ピークをきちんと出すように注意しました。

麻倉 ピーク輝度はどれくらいですか? 確か去年は900nits前後でしたよね?

筒井 具体的な数値を言えるレベルではありませんが、1000nitsは超えています。

麻倉 基礎体力をアップしたから、画質面でも大きく進化できたのですね。

筒井 それだけではありません。GZ2000のもうひとつの特長として、SoC(統合処理プロセッサー)を新しくしました。AIをかなり盛り込んだSoCを搭載しています。

麻倉 AIとは最近よく言われますが、GZ2000ではどんな使い方をしているのでしょう?

筒井 映像処理として、まずはシーン適合で使っています。シーンの内容を判別して色や輝度、コントラストを変えるという方法です。もうひとつはそこからさらに進化して、オブジェクトを認識したうえで最適なコントラストをつけていきます。

麻倉 それはつまり、被写体が人間なのか、山などの風景なのかといったことまで判別するということですか?

筒井 その通りです。それらを認識した上で絵づくりをしようという狙いです。具体的には、内部にデータベースを持って、被写体が何であるかを認識しています。同時に今回はこの処理をHDRにも活用したいと考えました。それが「AI HDRリマスター」です。

麻倉 入力された映像を単純に処理するのではなく、どんな物体であるかを知った上で補正するから、より正確な再現ができるということですね。これはかなりの進化です。

筒井 ありがとうございます。GZ2000については、「AI HDRリマスター」を含めてかなりの改善が期待できると思っています。

麻倉 今回「ドルビービジョン」に対応できたのも、SoCが変わったことが大きいのですか?

筒井 はい。今回は映像関連では「HDR10+」「ドルビービジョン」「HLG」、音関連では「チューンドbyテクニクス」「ドルビーアトモス」と、機能面でもてんこ盛りになっています(笑)。

麻倉 私は、パナソニックさんは「ドルビービジョン」は採用しないだろうと考えていました。そもそも「HDR10+」が「ドルビービジョン」対抗のような規格で、同じようにダイナニックメタデータを使っています(笑)。それでも今回「ドルビービジョン」を採用したのはどんな理由があったのでしょう?

筒井 絵づくりを進めていく中で、「HDR10+」の他にも差別化要因が欲しいと考えていました。去年は「ドルビービジョン」がないといった点をマーケティング的に指摘されましたので、今回は「ドルビーアトモス」にあわせて「ドルビービジョン」も採用した次第です。

麻倉 しかし「ドルビービジョン」を採用すると、メーカーとしての独自の絵づくりは制限されてしまうのではないでしょうか。

筒井 弊社は、それ以外の部分での絵づくりノウハウも持っていますので、大丈夫です。「ドルビービジョン」の標準に対して、プラスアルファでできることはあると思います。

画像: 新型有機ELテレビは「Professional Edition」の名が与えられた

新型有機ELテレビは「Professional Edition」の名が与えられた

東京オリンピックまでには、8K有機ELテレビを発売したい

麻倉 さて、今年のCES2019ではソニー、LG、サムスンなどほとんどのメーカーで8Kテレビが展示されています。パナソニックさんは、8Kはどうするのでしょう?

筒井 8Kについては、もう少し時間をかけて開発したいと考えています。

麻倉 といいますと?

筒井 8Kテレビは有機ELでやりたいという思いはあります。現在弊社としては有機ELに注力していますし、ここで中途半端な製品を出してもユーザーは喜んでくれないでしょう。8Kは有機ELで、ちゃんとした時期に出したいと思います。

麻倉 “ちゃんとした時期”というのは?

筒井 2020年の東京オリンピックがひとつの目標です。弊社はオフィシャルスポンサーでもありますので、それまでには発売したいですね。8Kテレビは高解像度になる分だけ、暗さや階調再現が犠牲になっている部分がありますので、そこをもう少し高めた製品を作りたい。

麻倉 画素サイズが小さくなるとコントラスト再現力がいっそう重要になってきますが、もともと有機ELは黒の再現性が高いので、その点では8Kのよさが活きてくるのではないでしょうか。

筒井 その通りだと思います。弊社で試作しているレベルでも、液晶パネルに比べて暗部階調やコントラスト再現では優位性があります。問題は明るさで、そこをどうするかに戻ってくるのです。

麻倉 今回のGZ2000では、有機ELパネルのセル以降の開発を自社で手がけて高輝度化を果たしていますが、8Kとなるとセルそのものの発光パワーも上げないと駄目ですよね?

筒井 そこについては、パネルメーカーに協力してもらって、開口率をあげる、蛍光体を改善するといったことも必要になるでしょう。

麻倉 その意味ではこれまでやってきたことを、さらに高度化していくわけですね。

筒井 もうひとつのポイントは、動画応答性能でしょう。オリンピックは動きの速い映像が多いです。それもあり、まずは4KのGZ2000で動画性能を高めて、8Kにも応用していきます。ここでは通常の倍速に加えて、色々な技術を盛り込みました。

麻倉 基本的には120Hz駆動は必須ですね。LGさんは88/77/66インチで展開するようですが、私に入ってきた情報によると8K有機ELパネルの70インチクラスは、開口率などでばらつきがあるようです。製品化するなら、まずは88インチがよいのですね。

筒井 ご意見、受けたまわっておきます。

麻倉 私は昨年の11月に、シャープの80インチ8K液晶テレビを自宅に導入しました。そして年末の紅白歌合戦を4Kと8Kで見比べたのですが、色々思うところがありました。

 4Kでも充分綺麗なのですが、8Kになるとまさに神の領域ですね。4Kは2Kの延長というコントラストや精細感再現なのですが、8Kになるとすべてが段違いになってきます。

筒井 ぜひ有機ELで再現したいですね。有機ELなら視野角もありませんし、コントラスト再現も優れています。私は有機ELが8Kの最終目標だと思っています。

麻倉 その意味では、じっくり開発していいものを出すという開発方針は正しいです。

筒井 急いで中途半端な製品を出して、こんな物なのかと言われるのは嫌ですからね。

麻倉 8K放送はまだ1チャンネルだけですし、視聴者数も少ない。これが今年1年で急激に増えるのも難しいでしょう。

筒井 8Kはコンテンツがまだ足りません。2020年のオリンピックまでにはもう少しコンテンツが増えてくるでしょうから、それまでにきちんとした商品として送り出したいと思います。

麻倉 オリンピックは8Kで観よう、ですね。それは楽しみです。ところで液晶テレビは現状維持といったところでしょうか?

筒井 液晶テレビは、基本的にはコスト重視になっていくでしょう。大型サイズになると有機ELテレビはまだ高価ですから、このあたりで液晶が残っていくと考えています。

麻倉 8Kの液晶はどうお考えですか?

筒井 弊社はトップモデルに有機ELを据えていますので、液晶の8Kをどう判断するかは難しいですね。日本や欧州のユーザーは目も肥えているので、8Kのような高級機を作るなら、やはり有機ELの画質が求められるでしょう。

麻倉 その意味では今回のGZ2000で画質が格段によくなって、しかも将来的には88インチ8Kも登場するというのはいい知らせです。有機ELビジネスが確実に広がっていきそうですね。

 とはいえ、まずは2020年のオリンピックですね。これはぜひパナソニックの88インチ8K有機ELテレビで観たい。期待しています。

筒井 ……頑張ります(笑)。

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