ヴォーカリストとして、パフォーマーとして、エンターテイナーとして、また新たな高みに到達したふたりを実感できる素晴らしいステージだった。この日、この場所にいなかったファンは、悔しがっても損はしないはずだ。

 実力を磨き続けるヴォーカル・デュオ、WHY@DOLLが11月11日、東京・渋谷Gladにてワンマンライヴ「WHY@DOLL~BAND LIVE~」を開催した。バンド伴奏によるワンマン公演は3月24日に東京・白金高輪SELENE b2で開催された「WHY@DOLLワンマンライブツアー2018 WINTER FINAL~Show Me Your Smile~@SELENE b2」の第2部以来。しかも今回は、いわゆる“同期”を一切除いたステージだったので、現在のふたりが持つ歌声の充実ぶりがそのままダイレクトに伝わるという、ヴォーカリスト=WHY@DOLLのファンにはたまらない、文字通り極上のステージとなった。

 “同期”とは何か。ようするに、「すでに仕込んである音」のことである。リアルタイムで出す音に、収録・加工・編集済みの音をかぶせると(マニピュレーターと呼ばれるひとが大活躍する)、ステージにいる人数以上の楽器の音をライブ会場で聴かせることも可能だし、オーヴァー・ダビングを重ねたCDやレコードと変わりないサウンドをナマで届けることも可能、というわけだ。ひじょうに便利なシステムで、過去何度か見たビーチ・ボーイズのステージは“もはやこれは同期ボーイズではないか”というぐらいの同期オンパレードだった。70代のメンバーがナマで歌うリード・ヴォーカルに、同期しておいた20代当時のビーチ・ボーイズのコーラス(その中には物故者もいる)が重なり、ステージに置いていない打楽器や金管楽器の音色が響き渡った時には手品に接したときのような驚きを感じたものだ。

 WHY@DOLLも通常は“同期”を導入している。つまり既に収録されていた青木千春や浦谷はるなの声に、リアルタイムの青木千春や浦谷はるなが生声をのせて、厚みを出していく。しかし今回はそれが一切なかった。もぎたての果実、しぼりたてのジュースという感じ。つまり100%オーガニックなのだ。その場で歌い、ハモリ(ふたりとも上にも下にもハモれる)、会場を盛り上げていく。それでいて声の厚みは同期導入時以上に豊かに感じられた。そして、そこに「いま、その場で音楽を創っていく」という生々しさが加わるのだから最高ではないか。二人の歌唱は、「また、さらにうまくなった」という表現がぴったり。声の表情力が増し、緩急に富み、歌詞の一言一言が明瞭に伝わってくる。ふたりが歌うハーモニーはすごく堅実で、これほどハモリをしっかり聴かせてくれるガール・グループが、ほかにどのくらいいるだろうか、と思うと、WHY@DOLLの存在がありがたくてしようがない。

 と同時に、アイドルとしてのいろんな活動がある中で時間を取って練習を重ねて、ここまでハーモニーを磨き上げたふたりの努力(それは音楽への愛情がなければ不可能なことだ)に敬服する。しかも彼女たちは、バンドが後ろで演奏している中でしっかり音程をとり、ただ歌うだけでなく、満面の笑みを客席に浮かべ、ときにオーディエンスを煽り、ダンスも披露しながら、それを行なうのだ。

 バンド・メンバーはバンマスのTats(ギター)、Pitari(キーボード)、石丸トモキ(ベース)、神保洋平(ドラムス)、石井裕太(テナー・サックス、フルート)。オーディエンスとのコール&レスポンスも重要な「恋なのかな?」等はCDテイクに寄せたアレンジをしていたが、CDではスウィート・ソウル風だった「Ringing Bells」は4ビートを基調とした編曲に。ペダル・ポイント(コードが変わっても、特定の音を持続するスタイル)を効果的に用いながら、スウィンギーにWHY@DOLLの歌唱を盛り立てた。CDでは“パトリース・ラッシェン歌謡”のテイストがあった「忘れないで」は、スティーリー・ダン「ディーコン・ブルース」を思わせる、くすんだ音作りに変貌。浦谷のメイン・ヴォーカルに青木がさわやかなハモリを入れ、「Forever」では青木がリード、浦谷がハモとポジションを逆転させた。どちらのパートを担当しても、2人は第一級のヴォーカリストである。WHY@DOLLが驚くほどオーディエンス間で人気の高い石井裕太は、もちろん「ラブ・ストーリーは週末に」でエモーショナルなサックス・プレイを聴かせ、「Dreamin’ Night」ではアルバム『WHY@DOLL』に入っているミニモーグ風のフレーズをフルートに置き換えて新鮮な効果をもたらしていた。

 ライヴ中盤で、浦谷は「実は、以前はバンド・ライヴが苦手だった。オケ(バック・トラック)で歌う時よりも、自分の声が生々しく聴こえてきて、アラが目立つような気がしたし、そもそも自分の声があまり好きではないのだ」というようなことを語った。当人が一番その魅力に気づいていないということはよくあることだが、「でも、上野優華ちゃんとアコースティック・ライブ・ツアーをしたころから、意識が変わってきました。最近はバンドで歌う楽しさを実感しています」と語り、さらなるバンド・ライヴへの意欲をみせてくれたのは嬉しいことだ。この“同期なしバンド・ライヴ”の経験は、今後のWHY@DOLLにすごくよい音楽的影響を与えるものと思う。今後もカウントダウン・ライヴ、2019年春ツアーを始め、話題満載のふたりに要注目だ。

セットリスト
SE - Dancin' For Broken Hearts (インスト)
バニラシェイク
あなただけ今晩は
秒速Party Night
shu-shu-star
MAGIC MOTION No.5
マホウノカガミ
Tactics
忘れないで
Forever
Sweet Vinegar
Dreamin' Night
夜を泳いで
Ringing Bells
ラブ・ストーリーは週末に
シグナル
Tokyo Dancing
恋なのかな?
初恋☆キラーチューン
GAME

(アンコール)
Interlude (NAMARA!!)
CANDY LOVE
Dancin' For Broken Hearts ※未音源化

WHY@DOLL  http://www.whydoll.jp/
青木千春 https://twitter.com/aokichiharu
浦谷はるな https://twitter.com/humhum0401

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