コルグから1ビットタイプのA/D & D/Aコンバーター「Nu I」が11月下旬に発売される。DSD 11.2MHzに対応したDAC機能に加えて、アナログ音声の録音も可能。さらに同社オリジナルの真空管デバイス「Nutube」を通した音も楽しめる、加えて、オノ セイゲン氏のプロデュースによる、マスタリングプログラムも提供。まさに万能デジタルデバイスだ。コルグ本社に出向き、Nu Iの開発陣にインタビューした。インタビュアーはご自宅で同社製DACを愛用している、麻倉怜士さんだ。(編集部)

画像: DSD 11.2MHzで聴いて、録れる。現代の万能デジタルデバイス、コルグ「Nu I」の魅力に大接近(前)
“こんな画期的な製品は、如何にして生まれたのか?”

1ビット USB-DAC/ADC+PREAMP Nu I ¥425,000(税別、11月下旬発売予定)

●対応フォーマット:USB=DSD:2.8/5.6/11.2MHz、1ビット
 リニアPCM=44.1/48/88.2/96/176.4/192/352.8/384kHz、16/24ビット
●オーディオ・ドライバー:ASIO2.1、WDM、Core Audio
●接続端子:デジタル音声入力1系統(USB Type-B)、アナログ音声入力2系統(XLR、RCA)、フォノ入力1系統(RCA、MM/MC切り替え)、アナログ音声出力2系統(LINE:XLR、RCA、USB-DAC DIRECT:XLR,RCA)、ワードクロック入出力各1系統、ヘッドホン出力2系統(アンバランス:フォーン、バランス:XLR 4pin)
●主な特長:直熱双三極管NUTUBE 6P1搭載、アナログ・プリアンプ機能(フォノアンプ搭載)、フル・ディファレンシャル回路、トロイダル・トランス搭載、DSDフォノ・イコライザー(AudioGate 4.5)、S.O.N.I.C.リマスタリング・テクノロジー、8トラック・マルチDSD録音(Nu I 4台使用時)、他
●消費電力:40W
●寸法/質量:W432×H93×D282mm(突起部含む)/5.9kg

麻倉 今日はコルグさんの新製品、Nu Iについてお話をうかがいたいと思います。まずはNu Iの特長を教えてください。

遠山 本機の開発責任者の遠山です。Nu Iは最大でDSD 11.2MHzに対応したDACで、同時にMM/MCのフォノ入力も備えており、DSD 11.2MHzでのデジタル録音もできます。

永木 開発担当の永木と申します。Nu Iでは楽器メーカーとしての独自性を出したいと考え、弊社独自の真空管デバイスであるNutubeを使った音づくりを加えました。

麻倉 そこがまさしくコルグらしい、ユニークなポイントですね。オーディオ専業メーカーは純粋な音を追い求めていくのですが、楽器メーカーとしてのコルグは違う切り口から、よりクリエイティブで、録音と再生という両面でユニークな仕掛けを備えた製品を作り出した。まず、Nu Iの開発経緯から教えて下さい。

遠山 弊社は3年前に「DS-DAC-10R」(以下、DAC-10R)を発売しました。DAC-10RはDSD 5.6MHz対応のD/A&A/Dコンバーターとしてスタートしましたが、その後世の中の流れがDSD 11.2MHzにシフトしていきました。そこで、弊社としても11.2MHz対応の録音・再生機をださなくてはならないと考えたのです。

 しかしそれだけでは面白くない。せっかくうちには最新の真空管デバイス、Nutubeがあるので、それを使ってワン・アンド・オンリーの独自性を持たせることにしました。Nutubeは楽器用として初めは考えていましたが、オーディオにも使えるという評価もいただいておりますので、これを使って新しい機能を付加したいと考えたのです。

麻倉 Nutubeを通すことで倍音や歪みを付加し、音質を変化させるわけですね。ちなみにその回路は何と呼んでいるのですか?

永木 「HDFC」(ハーモニック・ディテクティング・フィードバック・サーキット)です。ハーモニック=倍音を検出して帰還する回路という意味です。フロントパネルのスイッチでオン/オフと、3段階で効果の切り替えができます。

遠山 普通のオーディオメーカーであれば、スペック至上なので、数字を汚す倍音や歪みは抑えます。しかし今回はそれを逆手にとって、DACとしても使えて、かつ真空管を使うとこんなに味のある音がすることをアピールしようと考えたのです。さらにそこに、オノ セイゲンさんのマスタリングノウハウを入れていただきました。

画像: 取材時には、Nutubeの効果を切り替えながらいろいろな音源を聴き比べている。そのインプレッションは記事の後編でお届けします

取材時には、Nutubeの効果を切り替えながらいろいろな音源を聴き比べている。そのインプレッションは記事の後編でお届けします

DACとしての進化ポイントは?

麻倉 Nu Iには3つの注目ポイントがありますね。まずDACとしての進化、Nutubeの使いこなし、オノ セイゲンさんのマスタリングです。DACとしての機能はともかく、他の点はコルグならではでしょう。ではまず、Nu Iで11.2MHzに対応したことで注意した点はありましたか?

永木 DACとして11.2MHzに対応するだけではなく、DAC-10Rで指摘されてきたことをすべて改善しました。まず電源がDAC-10Rはバスパワーでしたが、これをAC電源にしてアナログ系とデジタル系を分けました。アナログ系にはトロイダルトランスを搭載しています。

 また、入力/出力はすべてバランス端子を搭載して、ヘッドホン出力にもバランス端子を採用しています。内部回路もフルディファレンシャル伝送です。そのあたりは11.2MHzという高音質に取り組む以上は必要だと考えました。

麻倉 そもそもの質問ですが、11.2MHzで録音できるようになったのは、デバイスの進化が大きいのでしょうか?

遠山 11.2MHzの録音に対応したA/D、D/Aコンバーターチップが出てきたことが大きいですね。今回はプロ用途でも使っていただきたいと考えて、バランス入出力はプロ用レベルにしています。また同時に4台までひとつのPCにつないで、マルチ録音もできるようになっています。

麻倉 8chのDSD 11.2MHzマルチトラック録音が可能ということですか?

永木 はい。プロの方にも使っていただけるクォリティを備えつつ、一般ユーザーさんにはそれだけではなく、楽しめるNutubeとしての機能やリマスタリングを提案します。

麻倉 電源等への配慮は、DACとしての音質改善にも効いてくるものでしょうか?

永木 DAC-10Rの音にも自信は持っていましたが、電源に余裕があることでバランスのヘッドホン出力も搭載できましたし、大きな音でもきちんと出せるようになりました。

遠山 バスパワーでは音に不安が残るとか、ちゃんとした電源で使いたいというユーザーさんの声がありました。今回11.2MHzに対応する以上は、S/Nや歪み率でも他のオーディオ用DACに負けないようにしたいと考えた次第です。

画像: Nu Iのリアパネル。中央下段が USB-DAC DIRECTの出力端子で、上段が ボリュウム経路等を通るLINE出力だ

Nu Iのリアパネル。中央下段が USB-DAC DIRECTの出力端子で、上段が ボリュウム経路等を通るLINE出力だ

Nutubeで ”心地いい歪み” を加える

麻倉 さてここからはコルグとしての特別な音づくりについてお聞きします。製品開発としてはDACの企画があり、そこにNutubeを加えていこうという発想だったのですね。

永木 Nutubeは出力回路に使っています。というのも、製品コンセプトとして原音を忠実に録音する点は崩したくありませんでした。そこで、録音時は色づけしないで、再生時には逆に自在に音作りを楽しめるように配慮しました。再生時にも真空管のオン/オフが可能で、あくまでも味付けに使う程度にしています。

麻倉 出力回路にNutubeを使うことで、音源には手を加えないんですね。これはとても大切です。オーディオマニア的には入力にもNutubeを使って個性を楽しみたいという発想もありますが、それだと原音が何かわからなくなってしまう

遠山 Nutubeの使い方は、真空管としての倍音成分を乗せるという方向で考えました。オン/オフスイッチを付けるところから始まって、倍音を介して歪み率を変える回路を作りました。

麻倉 歪みというのは、オーディオメーカーとしてはできるだけ取ってしまいたい、諸悪の根源のようなものです。でもコルグは、歪みは「味付け」だと考えたわけですね。

遠山 楽器メーカーとしては、ギターやピアノを自分で弾いて、返ってきた音が気持ちいいものが一番だと常に考えています。歪みが入ることで音がファットになるとか、細かい音が入る、スピードが速くなるといった変化を味わうのです。

麻倉 単純にNutubeで倍音成分を乗せるだけではなく、その量を調整しているわけですね。

遠山 単純な帰還回路では倍音も抑えられて、普通のアンプと同じになってしまいます。
そこで新たに倍音を帰還する回路を開発しました。

麻倉 倍音、歪みの量としては比較的抑えめですね。

遠山 倍音成分を抑えすぎると味わいまでなくなってしまいますので、調整には苦労しました。ただ、当初調整した値でオーディオ評論家の方々に聞いていただいたところ、オーディオとしては歪みすぎだと言われました(笑)。

麻倉 これはカルチャーの違いとして面白いですね。オーディオは少し硬直化したところもあって、原音再生というドグマに縛られて、それ以外は何も出来ないという面があります。しかし楽器メーカーでは、聴いていて気持ちいいものが善だという発想で、その意味ではスペックが第一ではないのです。その発想がNu Iに巧みに入っているなぁという印象があります。

遠山 そういっていただけると安心できます。

画像: AudioGateの再生メニュー。写真はレコードから録音した11.2MHz音源に、RIAAカーブをかけて再生している状態

AudioGateの再生メニュー。写真はレコードから録音した11.2MHz音源に、RIAAカーブをかけて再生している状態

麻倉 ところで再生音を楽しむ提案として、コルグの独自ソフトの「AudioGate」には「DSDフォノ・イコライザー」機能が搭載されています。今回はそこにSP専用のモードも加わったとか。

永木 はい。今回もNu Iでレコードを楽しんでいただけるよう、フォノ入力を搭載しましたが、さらに録音したレコード音源については、再生時にAudioGateでLP用6種類、SP用3種類のカーブを選べるようにしました。

麻倉 SP用の3種類のカーブが新搭載ですが、その内容は?

永木 オーディオ評論家の新 忠篤さんにお願いして作っていただきました。「Eu78」は戦前のヨーロッパ録音や日本録音のコロンビア、「Am78」は戦前のアメリカ録音や日本録音のビクター、「Postwar78」は戦後の録音をターゲットにしています。これがあれば、ほとんどのSP盤を楽しんでいただけるはずです。

麻倉 使い方としては、レコードを録音して、再生時にイコライザーを通すわけですね。

永木 はい。Nu Iを使ってレコードをDSD 11.2MHzでPCに録音し、再生するときにAudioGateでDSDフォノ・イコライザーのカーブを選んでいただくという手順です。

遠山 デジタルフォノ・イコライザーはセパレーションがいいので、音場も広く、別次元の音を楽しんでいただけます。

麻倉 録音は徹底的にピュアで、再生過程では幅広く楽しめるというのはいい発想です。アナログから単純にアーカイブできるだけではなく、それをより深く楽しめるという点に反応するレコードファンも多いのではないでしょうか。

遠山 ぜひ、そのように使っていただきたいと思っています。

圧縮音源を蘇らせる「S.O.N.I.Cリマスタリング・テクノロジー」

麻倉 オノ セイゲンさんのリマスタリングのお話に入りましょう。Nutubeだけでも面白いのに、さらにそこにマスタリング効果を入れましょうというのは凄い発想ですね。

永木 「S.O.N.I.C.(Seigen Ono Natural Ideal Conversion)リマスタリング・テクノロジー」と呼んでいます。弊社では前からオノ セイゲンさんに色々なアドバイスをいただいていました。セイゲンさんはご自分がYouTubeをご覧になる時にもリマスターして楽しんでいたそうです。今回は、みんながそれを体験できたら面白いよねということで実装しました。

麻倉 この機能を使う場合はPCのアプリと組み合わせるんですね。

永木 はい、Nu IとPCをUSBケーブルでつなぎ、AudioGateを使ってPCに保存したMP3やWAVなどのファイル、さらにYouTubeなどの音源をリマスターして再生します。PCのオーディオドライバーとしてWindowsのASIO、MacのCore Audioなどがありますが、そこに信号が流れるときに最大11.2MHzのDSDにアップサンプリングしつつ、リマスタリングの効果も加えるというものです。

 これまでもアップサンプリングをする製品はありましたが、同時にリマスターまではできませんでした。しかもそこに、セイゲンさんが自分だったらこんな風にリマスターするというプリセット値をたくさん用意していただきました。

麻倉 ユーザーが自分の部屋で、アップサンプリングとリマスタリングの効果が味わえる。これはいいですね。リマスタリングの効果が大きいのはやはりYouTubeですか?

永木 そうですね。YouTubeの音源はほとんどが44.1kHzか48kHzのAACですので、効果は大きいと思います。また音楽配信の圧縮音源にも効果的です。

画像: 左がS.O.N.I.C.リマスタリング・テクノロジーの操作画面で、3つ並んでいるダイヤルは左から「L」「C」「H」の調整用となる。右はオノ セイゲンさんが作ってくれたプリセットモードの一覧

左がS.O.N.I.C.リマスタリング・テクノロジーの操作画面で、3つ並んでいるダイヤルは左から「L」「C」「H」の調整用となる。右はオノ セイゲンさんが作ってくれたプリセットモードの一覧

麻倉 ハイレゾ音源はどうでしょう?

永木 DSD 11.2MHz以外は処理出来ますが、効果が大きいのは圧縮音源です。またリマスタリングのプリセットとして100種類以上が登録されており、このうち100番台はほんのわずかに効果を足しているもの、200番台はアグレッシブに音が変わるもの、300番台は特定の楽曲に合わせたものになります。ハイレゾのような状態のいいソースには100倍台を使っていただくといいでしょう。

麻倉 300番台で特定の曲名がついているものは、YouTubeやCD等のどれをターゲットにしているのでしょう?

永木 300番台の前半がウェブ素材で、後半はCDでチューニングしたものになります。ただ、厳密に分かれているわけではないので、音を聴いて気になるところは微調整して下さい。そのために「L」「C(Conscious)」「H」の3つの項目が調整できるようになっていますし、その結果はPCに保存可能です。

麻倉 調整項目は、「L」が低域、「Conscious」が中域、「H」は高域ですか?

永木 詳しくはセイゲンさんにしかわからないのですが、「Conscious」は単純に中域を調整しているわけではなく、“旨み”も含んでいるようです。また高域と低域も一定ではなく、プリセットによって調整できる周波数域を変えているそうです。

麻倉 “旨み”という表現はいいですね。入力された信号をストレートに楽しむだけではなく、旨みを足して味わうことができる。この点にも、他にはない価値を感じます。では最後に、Nu Iに興味を持っているオーディオファンにひとことお願いします。

遠山 若い人達から往年のオーディオファンまで、沢山の人にNu Iの音を聴いていただきたいと思っています。そのために色々なシチュエーションで、多用なソースを楽しんでいただけるよう、多彩な機能を盛り込みました。

永木 Nu Iは、プロの方、オーディオマニアの方、真空管が気になる若い層といった皆さんに向けて、Nutubeを始めとするコルグの取り組みをすべて盛り込んで作りました。ぜひ色々なアプローチを楽しんでいただきたいと思います。

麻倉 Nu Iは、ベースとなるDACの音がきちんとしているから、そこに旨みを加えて、さらに価値が上がります。ここが重要です。さらにソースによってはリマスターしてもいい。その意味で二重、三重の楽しみ方ができる製品といえます。音には“高音質”と“好音質”のふたつがあると私は考えていますが、Nu Iはその両方を楽しめる、画期的な製品ですね。

※後編に続く
https://online.stereosound.co.jp/_ct/17220855

画像: インタビューに対応してくれた、株式会社コルグの遠山雅利さん(左)と永木道子さん(中央)

インタビューに対応してくれた、株式会社コルグの遠山雅利さん(左)と永木道子さん(中央)

This article is a sponsored article by
''.