今回リンから発表されたSELEKT DSMは、基本的にはMAJIKとAKURATEのギャップを埋める新シリーズとなる。

 現在リンがラインナップしているアンプ一体型のDSは「MAJIK DSM」の一機種のみで、その次のプリ+アンプの組合せは「AKURATE DSM」と「AKURATE 2200」となる。MAJIKとの価格差は百万円を越え、たしかに、MAJIKとAKURATEのギャップを埋める製品として、SELEKTの立ち位置は説得力がある。

 発表会の内容や具体的な製品仕様はレポート記事を参照していただくとして、ここからは実機に触れた筆者のインプレッションをお届けしたい。

 SELEKT DSMの第一印象はとにかく「かっこいい」に尽きる。ただならぬ存在感を放ち、いかにも「いい音がしそう」と感じさせる製品は数あれど、純粋にデザインの素晴らしさを感じさせる製品との出会いはそうそうあるものではない。リン・プロダクツの代表ギラード・ティーフェンブルン氏の語る「外観には特にこだわった」との言葉に偽りはない。

 2007年に登場したKLIMAX DSは本格的なネットワークプレーヤーの嚆矢でありながら、物理ボタンを持たず外部端末からの操作が前提となるデザインは、ネットワークオーディオの本質を体現するものとして、今なお孤高の境地にある。一方、最新モデルのSELEKT DSMは、多機能なボリュウムノブや物理ボタンを搭載する。それらが優れたデザインであることに異論はないが、本体で操作を行なうという発想は、ネットワークオーディオというスタイルからすれば後退になるのではないか、とも考えた。

 しかし、その疑念は、実際に本機を触ったことで払拭された。

 SELEKT DSM本体で可能なのはあくまでも再生・停止・ボリュウム調整・曲送りといったごく基本的な操作であり、「ユーザーの音楽ライブラリーまたはTIDAL等のストリーミングサービスから聴きたい音楽を探し出す」という部分は、従来通りあくまでもアプリ(Kazoo)上で行なわれる。つまりSELEKT DSMは、アプリによるコントロールというネットワークオーディオのスタイルを堅持しつつ、「音楽再生における最後のワンタッチ」を、「機器の側」でも、「実に洗練されたフィーリングで」行なえるようにしたのだ。これはかつてのオーディオシステムにあった「直接性」を見事な形で盛り込んだものであり、ネットワークオーディオの後退ではなく、ひとつの進化と呼ぶべきだろう。

 筆者が特に注目したのが「ピン」と呼ばれる機能。フロントパネル上部の6つのボタン(押した感触はピアノの鍵盤を思わせる)それぞれに、アルバム/トラック/プレイリストや各種機能を自由にアサインし、ボタンを押すだけでダイレクトに音源の再生や機能へのアクセスができるという仕掛けだ。

 これはネットワークプレーヤーにありそうでなかった機能で、例えば家に帰ってきた時、スマートホンを取り出す必要も操作アプリを起動する必要もなく、本体のボタンをぽちっと押すだけで好きな音楽の再生を始められる。発表会で幾度となく繰り返された「Easy to Use」という言葉を体現する機能だと感じた。

画像: リン・プロダクツ代表のギラード・ティーフェンブルン氏。「ハイエンドオーディオ」の世界に、ネットワーク再生というコンセプトを11年前に持ち込んだ。今回のSELEKT DSMはそれ以来となる「新しい提案」とのことだ

リン・プロダクツ代表のギラード・ティーフェンブルン氏。「ハイエンドオーディオ」の世界に、ネットワーク再生というコンセプトを11年前に持ち込んだ。今回のSELEKT DSMはそれ以来となる「新しい提案」とのことだ

「聴いて」「使って」楽しい『これまで』のDSから
「見て」「触って」楽しい『これから』のDSへ

 リンの最新ネットワークプレーヤーとして、SELEKT DSMは音質面でも高い実力を聴かせてくれた。

 デモンストレーションは、まずDSのベーシックモデルであるMAJIK DSMとSELEKT DSM(スタンダードDAC・アンプ搭載モデル)の比較を行ない、続いて、SELEKT DSM(ライン出力モデル)におけるスタンダードDACとKatalyst DACの比較が行なわれた。

 MAJIKとSELEKT、スタンダードDACとKatalyst DACとの差はやはり厳然としており、ピアノの高音域の伸びと透明感、ドラムのインパクトとエネルギー感、ヴォーカルの厚みと耳当たりのよさなどなど、全方位での向上が間違いなく感じられた。SELEKTは仮にスタンダードDAC・ライン出力モデルから始めてもアップグレードが可能な仕様になっていることも、導入を考えるユーザーにとって大きな朗報となろう。

 刷新されたSpace Optimizationの効果も素晴らしかった。試聴に使われたのはBeckのアルバム『Colors』から「Seventh Heaven」。全曲通じて音圧が高く保たれ、強力な低音が印象的な曲だ。Space Optimizationを有効にすると、低音の歯切れが一気に向上して空間の見通しが開け、ヴォーカルの伸びやかさや高音の透明感にも大きな改善があった。新Space Optimizationは今まで発売されたすべてのDSで使用可能になるということなので、DSユーザーはおおいに期待してほしい。

 オーディオ機器ならば、優れた再生品質によって「聴いて楽しい」ことは当然だ。ネットワークプレーヤーならば、完成度の高いコントロールアプリによって「使って楽しい」ことも当然だ。SELEKT DSMは従来のDSシリーズが達成していた美点はそのままに、傑出したデザインによる「見て楽しい」と「触れて楽しい」が加わることで、さらなる魅力を手に入れた。特にデザイン面に関しては、今後のリン製品への波及が楽しみになるレベルの仕上がりとなっている。

 リンの「これまで」を結集して誕生したSELEKT DSMが、「これから」どのような世界を創造していくのか、本当に楽しみだ。

画像: セクシーとも表現できる美しいすがた。そして快感すら覚える操作フィール。「見て楽しい」、「触って楽しい」という新しいオーディオの提案だ

セクシーとも表現できる美しいすがた。そして快感すら覚える操作フィール。「見て楽しい」、「触って楽しい」という新しいオーディオの提案だ

 

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