先般ベルリンで開催されたIFA2018について、StereoSound ONLINEでも注目トピックを麻倉さんの現地リポートで紹介した。その際に麻倉さんは、シャープブースの“目のつけどころ”の変化を感じたという。その変化について、シャープ株式会社石田佳久副社長に直撃インタビューを実施していただいた。その様子を、紹介しよう。(編集部)

麻倉 今日はよろしくお願いいたします。シャープさんのブースは一昨年のIFA復帰以来拝見していますが、今年は出し物が増えてきたなぁと実感しました。8Kテレビも、前回のLC-70X500に続いて第二弾が登場しました。まずは8Kテレビへの取組みについてお聞かせ下さい。

石田 これは欧州だけではなく全世界的な展開になりますが、販売地域を7ヵ所に増やしました。昨年までは日本、台湾、中国、欧州の4ヵ所でしたが、そこにインド、中東、ASEANのタイやインドネシア、ベトナム、マレーシアを加えました。

画像: プレス・カンファレンスで有機ELスマホを掲げる石田氏

プレス・カンファレンスで有機ELスマホを掲げる石田氏

 また8Kテレビも昨年は70インチだけでしたが、今回は60インチと80インチを加えています。どの地域でどのサイズを販売するかはこれからですが、3機種をラインナップして展開していきます。

画像: 8Kディスプレイの市場を拡大する

8Kディスプレイの市場を拡大する

麻倉 70インチだけだとユーザーも限定されますが、60インチや80インチが揃っていれば、幅広いお客さんに選んでもらえますね。

石田 日本では4K・8K放送が12月1日から始まりますので、それに併せて国内向けの商品を導入していきます。またオーディオ関連の商品も日本市場で展開していこうと思っています。

画像: 第2世代「AQUOS 8K」80型

第2世代「AQUOS 8K」80型

麻倉 今回のプレスカンファレンスで印象的だったのは、シャープとして8Kをどう使うかが、はっきり見えてきた点でした。

 今回のIFAは「8K・IFA」のようなところがあります。日韓の主要テレビメーカーを始め、中国ブランドの多くが、8Kディスプレイを展示していました。でも、テレビの主要メーカーで8Kに対する戦略がまったく異なっています。

 一口に「8K」といっても、真摯8K、なんちゃって8K、マーケティング8K、試作8K、見送り8K……とさまざまな8KがIFAを彩りました。もっとも正攻法にて、社運を賭けて真摯に誠実に取り組んでいるのがシャープでした。

石田 ありがとうございます。シャープは真面目に8Kに取り組んでおります。テレビに加え、医療や工場向け、セキュリティといった8Kエコシステムについては昨年から取り組みを始めていました。

 テレビだけでなく、8Kの技術を使ってどういう市場が作っていけるかを模索しています。当然インプットの8Kカメラや信号処理、伝送技術なども必要です。今回5Gの話もさせていただきましたが、5Gのネットワークを使って伝送をやるといったことも検討しています。

麻倉 8Kの応用範囲をテレビ以外にも広げていこうというアプローチですが、これは4Kの時にはあまりなかったことです。やはり8Kの画質だからできる、という判断でしょうか?

石田 間違いなく、8Kだからできる領域があります。例えば工場の検査機器などで、本当に微細な傷は人間の目じゃないと確認できません。さらに人によっても差があります。でも8Kカメラが導入されれば、熟練の職人と同じ精度で確認ができます。

麻倉 今までは人がチェックしていたのが、8Kカメラならその代わりが可能だと。そう考えると、発想次第で応用範囲がずいぶん広がりますね。

石田 昨年のCEATECで展示しましたが、8Kで絵画を撮影したら本当に細かい描き込みまでよくわかるんです。さらにデジタイズして8Kフォーマットで保存しておけば、教育現場などでも使えるでしょう。

麻倉 NHKが撮影したルーブル美術館の8K映像は私も観ましたが、画家がこんなところまで描き込んでいるんだと、感動しました。もうひとつ、シャープはAIoTというキーワードでIoT関連技術にも熱心に取り組まれていますが、これと8Kはどのようにリンクしていくのでしょう?

石田 物づくりの現場では、液晶パネルなどの検査で有効です。8Kパネルは人間の目視による検査では限界があります。でも8Kカメラを使って検査し、データを蓄積することで歩留りの向上にあてていきます。データを蓄積したり、解析したりというのはIoTの世界ですから、これを組み合わせないと実現は出来ません。

麻倉 優秀なセンサーで細かい部分を解析し、それをビッグデータ化して検索の精度を上げようという流れですね。AIoTは、8Kとの相性がよさそうですね。

石田 AIoTはコンシューマー製品にも応用していきたいと考えていますが、具体的な展開はまだはっきりとは見えていません。ただし、日本向けの白物家電ではAIoTの技術は積極的に使っていきます。

 今後はエアコンとか電子レンジ、冷蔵庫、一部の洗濯機にもAIoT技術を搭載しようと考えています。仮に全部の製品にマイクとスピーカーが付いたとすると、例えば冷蔵庫の前で「暑い」と言ったら、それをAIoTが関知して自動的にエアコンを入れてくれるということも可能でしょう(笑)。

 もちろん、スマートスピーカーに話しかけて家電を操作するといったことは既に始まっていますが、そういった特定の製品がなくても、家の中のどこにいても同じようなことができるのがAIoTの可能性のひとつです。

 また今回のIFAでPCとスマートホンを発表しましたが、どちらもオープンなプラットフォームですので、そこにシャープが展開している「COCORO+(ココロプラス)」のようなサービスを乗せれば、それがAIoTの入口や出口になります。そういった形でAIoTの世界観を加速していきたいと思っています。

麻倉 スマホはAIoTの核になるアイテムですから、自社で手がける意味もあるでしょう。一方でPCを新たに手がける意義はどこにあるのでしょう?

石田 最近はPCがタブレットやスマホに置き替わっていますが、B to B市場では一定の需要があります。そちらはソフトウェアとのマージ(融合)によって、まだまだ進化させることが出来るだろうという判断です。

 またコンシューマーの世界でも、PCはそれなりの市場規模があります。これまではインターネットやメールが主な用途でしたが、AIoTにつながれば家電のコントロールセンターになる可能性もあると考えています。

麻倉 今年の展示では、ピニンファリーナ(Pininfarina)デザインのテレビも面白かったですね。

画像: ピニンファーナがデザインした液晶テレビ

ピニンファーナがデザインした液晶テレビ

画像: SHARP PININFALLENA MVI 2496 youtu.be

SHARP PININFALLENA MVI 2496

youtu.be

石田 ハードウェアのビジネスで、デザインは重要な要素です。ただデザインは、欧州なら欧州の、その場でしかわからないテイストが確実にあります。そういったものを現場の声として拾い上げてみようと企画したのがあのテレビです。

 現時点では製品化するかなどは一切決まっていませんが、他社との違いも出せるし、オーディオや白物家電にも使える要素はあると思いますので、そういった所を探してみようと考えています。そこが新しいチャレンジでもあります。

麻倉 ピニンファリーナを選んだポイントはあったのでしょうか?

石田 現地の社員が選びました。やはりフェラーリのデザインを手がけているのが有名ですからね。

麻倉 私の愛車のプジョー・306カブリオレもピニンファリーナデザインです。この車はデザインに惚れて購入しましたが、未だに気に入っています。さて、先ほどお話がでましたが、今回はオーディオ製品も展示されていました。

画像: シャープのエキサイティングな新提案を、IFA2018ブースで実感。石田佳久副社長にその狙いを聞いた:麻倉怜士のいいもの研究所 レポート5
画像: シャープはオーディオにも再参入

シャープはオーディオにも再参入

石田 シャープが、なぜ今更オーディオなのかという質問もいただいています(笑)。

 ひとつのきっかけになったのは8Kです。22.2chの放送が始まったら、これを家の中でどう再生したらいいのかと。当然5.1chなどへのダウンミックスはやらなくてはならない。であるなら、8Kのオーディオをきちんとやっていきましょうという点が第一です。

 また、欧州のセールスからの要望もありました。今回のネットワークラジオについても、インターネットラジオが楽しめる製品が欲しいという声があったのです。

麻倉 先ほどの22.2ch音声にしても、NHKは技術展などでドルビーアトモスにダウンミックしてAVセンターで楽しんで欲しいといったデモを行なっていました。しかし、リビングでAVセンターを使っているのはそれなりのマニア層です。本来はテレビユーザーが22.2chの凄さを簡単に感じられるような提案が欲しいですね。

画像: 22.2chも5.1chも一台のサウンドバーで再生する

22.2chも5.1chも一台のサウンドバーで再生する

石田 そこもしっかり取り組んでいきたいと考えています。

麻倉 前述しましたが、8Kテレビについては、シャープと他社で本気度が違うということもブースを見て感じました。例えばサムソンの展示は100%アップコンです。それに対しシャープは8Kコンテンツをきちんと作って、それを正しく表示するディスプレイを展示している。

 カメラを含めて、コンテンツから表示までの8Kエコシステムを作っているのが正しいと思いました。これらの物づくりが浸透していけば、ビジネスにもいい影響がでてくることでしょう。

石田 ありがとうございます。おっしゃっていただいたように、一年間いろいろやってきて、できることが見えてきた状態ではあります。

 欧州のビジネスはお店がローエンド製品しか扱ってくれない状態だったのですが、最近はプレミアム商品の取引も始まっています。テレビにしても、今まではいわゆる普及価格帯が中心だったのですが、プレミアムラインもきちんと販売できるような場も確保できています。

 実際にこれまで取引のなかったメディア・マルクト(註:欧州最大の家電量販チェーン)の店頭にも8Kモニターの展示も進んでいます。そういうお店と取引が出来るようになると、オーディオ機器や白物家電なども導入できますし、付加価値の高い製品をきちんと扱ってもらえるようになります。

麻倉 今回メディア・マルクトで製品を扱ってもらえるようになったのは、8Kテレビを発売したことが大きいのでしょうか?

石田 8Kもそうですし、私自身も先方のマネジメント担当者とお話しして、弊社の106年の歴史やどういった製品を作ってきたかをプレゼンしました。また、鴻海の製造・物流のコストベネフィットと、シャープの技術・商品企画力がマージすることで今までとは違う物をお見せできますと説明しました。

麻倉 そうなると、物づくりとしてもプレミアムに相応しい価値を持ったものが求められます。

石田 プレミアムな技術はしっかり載せて、でも比較的手頃なお値段の商品を提供できるのが弊社の強みだと思っています。

麻倉 最後にお聞きしたいのが、有機ELについてです。自社製有機ELパネルを搭載したスマホもデモされていましたが、商品化は?

石田 具体的な予定は決まっていません。今回はスマホの高級機のあり方として提案しました。ただ、あの有機ELパネルは自社デバイスなので、好きなように料理できます。形やデザインの要素を取り入れていきたいと思っています。

画像: シャープ製の有機ELを搭載したスマホ

シャープ製の有機ELを搭載したスマホ

麻倉 ぜひテレビにも有機ELパネル搭載機をラインナップしていただきたい。

石田 弊社はまず8Kという思いがあります。有機ELパネルで8K解像度ができるのなら、有機ELテレビもいいと思うんです。結局はどんな絵をお客様に観せられるかです。

 有機ELの方がいい部分もあるし、液晶の方が優れているところもある。両方のメリットをきちんと評価して、有機ELがいいとなれば、それを選択すべきだと思います。あるいは自社でパネルを作るところから始めるかもしれません。

麻倉 小さいながら、シャープが自社で有機ELパネルを作ったというのはエポックメイキングでした。

石田 前から技術的には可能だと社内では話していたのですが、実際に作れたので驚きました(笑)。

麻倉 シャープはここ数年の激動の時代でしたが、次第に革新の中身が見えてきました。ピニンファリーナデザインや8K、有機ELなど、他社とはひと味違う。この調子で他にないワン・アンド・オンリーのブランドに成長していってください。楽しみにしています。

石田 はい、ありがとうございました。

画像: 麻倉さんの質問に応える石田氏

麻倉さんの質問に応える石田氏

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