今回はエミライが扱う、MrSpeakers(ミスタースピーカーズ)のヘッドホン「VOCE」(MRS-VC-20)を紹介したい。本機は前回紹介したスタックスと同じ静電(コンデンサー)型のヘッドホンで、想定市場価格は39万前後と製品セグメントとしてはハイエンドな部類に入る。

画像: MrSpeakersの静電型ヘッドホン「VOCE」。オープンプライスで想定市場価格は¥390,000前後

MrSpeakersの静電型ヘッドホン「VOCE」。オープンプライスで想定市場価格は¥390,000前後

 MrSpeakersは2013年にアメリカのサンディエゴでダン・クラーク氏によって設立された、ヘッドホン専業の新興オーディオメーカー。独自技術の開発に熱心で、多くの特許も取得しているのが強みだ。2015年の日本上陸以来、高音質ヘッドホンブランドとして知名度を広げつつある。現時点でのライナップは7製品(厳密に言えば仕様違いの製品がいくつかある)で、今回紹介するVOCEは同社初にして唯一の静電型ヘッドホンとなっている。

 VOCEは直径88mmの大型ダイヤフラムを採用し、これを厚さ2.4ミクロンのドライバーで駆動する。大型ダイヤフラムは低域再生に貢献し、極薄のドライバーによって安定性と性能を高次元で実現しているとメーカーは説明している。

画像: ダイヤフラムは88mmと大きい。ハウジングの質感の高さは、写真でもお分かりいただけるはず

ダイヤフラムは88mmと大きい。ハウジングの質感の高さは、写真でもお分かりいただけるはず

 ハウジングはアルミ合金削り出しで、ヘッドバンドワイヤーにはニッケルチタンの形状記憶合金が採用されている。イヤーパッドはイタリア製で、高級車のシートにも使われるナッパレザーだ。触ってみるとしなやかで革本来の風合いを色濃く残す、ナッパレザー独特の質感が感じられた。

画像: ナッパレザーを採用したヘッドバンド

ナッパレザーを採用したヘッドバンド

 ケーブルは振動や摩擦、折り曲げ等で生じるマイクロフォニックノイズを抑える設計で、導体には銀メッキの高純度銅を用いている。静電型ヘッドホン用アンプに接続するプラグのコンタクト部にも高純度銅を採用し、こちらは表面に金メッキを施す。

 本体を手に取ってよく見るとハウジングの表面は鈍く光る。恐らく音質面を考えて、アルミと他の金属の含有量を調整しているのだろう。やや丸みを帯びたエッジも、意匠面だけでなく音質面も考慮して決められたはずだ。ヘッドホンは頭部に直接装着して聴くので、スピーカーに比べ、使われている素材のキャラクターがモロに音に影響しやすい。部材選定やデザインはエンジニアの腕の見せ所と言えるだろう。

 ウォルナットを使った専用ケースも所有欲をくすぐる仕様で、前面がアクリルで観音開きとなっているから使っていない時でも飾って楽しめる。ヘッドホンをちょっとしたインテリアにできそうだ。

画像: 観音開きのフォルナット製専用ケースが付属する。このまま飾っておけるのが嬉しい

観音開きのフォルナット製専用ケースが付属する。このまま飾っておけるのが嬉しい

 質量は330gで、持ち上げると見た目より軽く感じた。装着感も良好でイヤーパッドは耳をすっぽり覆う。試聴時のズレもそれほど気にならならいレベルだ。また、ケーブルの取り回しもハイエンドモデルとしては扱いやすい方だろう。

 試聴は通り筆者の部屋で、ヘッドホンアンプはスタックスの静電型ヘッドホン用アンプ「SRM-D10」を使用した。静電型ヘッドホンは、平らな2枚の固定電極の間に振動膜(ダイヤフラム)を配置し、電極に電圧をかけた際に生じる静電気によって振動膜を動かして、発音する。そのため、専用のアンプが必要だ。しかし、MrSpeakersでは取扱いがない。そこで、仕様に互換性のあるスタックスの静電型ヘッドホン用アンプから「SRM-D10」(¥90,000)を使った。

画像: VOCEと静電型ヘッドホン用アンプ「SDR-M10」

VOCEと静電型ヘッドホン用アンプ「SDR-M10」

 SRM-D10は、ポータブルタイプの静電型ヘッドホン用アンプ。DAC機能を内蔵し、PCMが最大384kHz、DSDは5.6MHzまで再生可能だ。バッテリーを内蔵し、アナログ再生なら約4.5時間、デジタル再生でも約3.5時間の連続駆動に対応する。

画像: SDR-M10のリヤパネル。スマホやPCと接続し、USB DACとしても利用可能だ

SDR-M10のリヤパネル。スマホやPCと接続し、USB DACとしても利用可能だ

 試聴ソフトは、ステレサウンドストアで発売されている、SACD/CDボックス『ContemporaryRecords Vol.1』から『アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セクション』の「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」(アナログ入力)と、私のリファレンスCD『保科洋作品集』から「風紋」(CDリッピングによる44.1kHz/16bitのWAVファイル)をチョイスした。

 『ContemporaryRecords Vol.1』は、優秀録音の宝庫と称されるコンテンポラリー・レコーズのタイトルから、ステレオサウンド執筆陣5人が1作品ずつ選んだ名盤ボックス。そのサウンドはどれも至高のもので、持っていて損はない作品たちだ。気になる5枚の内訳は、下記リンクより参照いただきたい。

ラグジュアリーでシルキーなサウンドに魅了される

 MrSpeakers、VOCEサウンドを一言で表すなら「優雅なサウンド」が当てはまるだろう。車で言えばラグジュアリーサルーンのようだ。しなやかで穏やかな響きと、クラッシックの様なスケールの大きい曲でも、余裕あるサウンドがゆったりと音楽に浸る気持ちにさせてくれる。

 『ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ』では、アート・ペッパーの官能的な表現を存分に、そして、シルキーなメロディーを余す所なく聴かせてくれた。『風紋』ではダイナミックに演奏されるシンコペーションのレスポンスが良く、フォルティシッモでも耳にきつく感じないサウンドはハイエンドの証と言えるだろう。

 MrSpeakersの静電型ヘッドホンVOCEは、質実剛健の見た目とは裏腹に、上質感溢れるサウンドが魅力だ。もし、本機を手に入れられる方は、シルキーでラグジュアリーなサウンドを、時間を許す限り楽しんで欲しい。

画像: VOCEの上質なサウンドを楽しむ木村氏。WAVファイルは、アンプをUSB DACとして使って聴いている

VOCEの上質なサウンドを楽しむ木村氏。WAVファイルは、アンプをUSB DACとして使って聴いている

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