画像: 鳥居一豊のアニメノヲト第11回:『B:THE BIGINING』。見始めたら止まらない! ミステリアスなストーリーと詩情溢れる映像と音

今回ヲトアニメ
『B:THE BIGINING』
NETFLIXにて配信中
・2017年日本
・カラー(16:9)
・ドルビーデジタル+ 2.0ch/5.1ch
(C)Kazuto Nakazawa / Production I.G

 動画配信(VOD)サービスが急速に普及してきているが、なかでもNETFLIXは4K作品やHDR技術を採り入れたコンテンツを充実させ、また他では見られないオリジナルコンテンツも積極的にラインナップしていることで知られる。

 『B:THE BIGINING』は、そんなNETFLIXのオリジナルアニメ作品として、Production I.Gが制作したものだ。今年の3月2日から全12話のエピソードの配信がスタートしている。

 本作は1話がおよそ30分の全12話という、テレビアニメ放送の形態に近い構成となっている。違いがあるとすれば、毎週放映(配信)ではなく、全12話がまとめて(一気に)配信されている点くらいだ。しかし、作画などのクォリティはテレビアニメを超える質の高さを持ち、音声フォーマットもステレオに加えて、5.1chが用意されるなど、パッケージ化した作品に引けを取らない仕様。さらに、全世界で配信されるので、日本語だけでなく各国の言語でローカライズされていることも特徴だ。

 物語の舞台となるのは、ヨーロッパの片田舎のような雰囲気を持つ群島国家「クレモナ」。そこでは、凶悪な犯罪者による猟奇殺人事件が連続して発生しており、現場には「B」の文字が残されていることから、犯人は「キラーB」と呼ばれていた。物語は「キラーB」を追う王立警察特殊犯罪捜査課(通称RIS)の捜査メンバーの視点から、複雑に絡み合った事件の謎に追っていく。

画像: 『B:THE BIGINING』の作品解説画面。コンテンツスペックは、HD制作/5.1ch音声であることが分かる

『B:THE BIGINING』の作品解説画面。コンテンツスペックは、HD制作/5.1ch音声であることが分かる

薄型テレビ内蔵のNETFLIXで視聴する場合、サラウンド音声の再生は注意が必要

 本作はサイコスリラー的な要素を持ったミステリー作品なので、ネタバレを避けるため冒頭の1~3話のみの見どころと聴きどころを紹介していこう。

 本作が5.1ch制作であることはすでに述べたが、当然ながら5.1ch音声で見る(聴く)のが一番の楽しみ方だ。その音響はリアルなサウンドに彩られ、サラウンドによる空間感もしっかりと再現されているので、「キラーB」の飛翔(飛ぶんです)も、移動感がとても豊かに描かれる。NETFLIXのコンテンツは、旧作を除けばほとんどがサラウンド(5.1ch)音声を採用しているので、テレビ内蔵のスピーカーでなく、AVアンプやサウンドバーなどのサラウンドシステムを組み合わせれば、より楽しみも広がるだろう。

 システム構築で気をつけたいのは、薄型テレビのネット機能でNETFLIXを視聴する場合だ。テレビからサラウンドシステムへの音声出力は、デジタル音声出力(光)か、HDMIのARC機能を使用するが、設定が間違っていると5.1ch(サラウンド)音声を楽しめない(出力できない)ので、きちんと確認しておきたい。

画像: シーズン1のエピソード一覧。全12話が配信されており、それぞれのあらすじとエピソードがリストアップされている

シーズン1のエピソード一覧。全12話が配信されており、それぞれのあらすじとエピソードがリストアップされている

凶悪な犯罪者と異形のヒーローとの戦いをスタイリッシュに描く

 第1話の冒頭では、暗い森の中で逃げ惑う女性と、それを追う犯罪者の姿が描かれる。猟奇殺人事件と思いきや、そこに黒い羽根を持った異形の者が乱入し、犯罪者を殺してしまう。RISの捜査チームが現場に向かうと、そこ(大木の幹)には「B」の文字が刻まれている。これこそ「キラーB」たる由縁だ。

 5.1chの音声はサイコスリラー的な雰囲気を豊かに伝えてくれるし、映像に重ねられる象徴的なキーワードとシリアスかつミステリアスな音楽が相まって、事件の異様な雰囲気と、その裏でうごめくまったく別の物語を予感させる。音楽を担当するのは池 頼広(いけ よしひろ)。ときにシリアスに、ときにロマンチックに、シーンに合わせて作曲したかのようなバラエティ豊かな劇伴も大きな魅力だ。

 捜査チームが事件を追う形で物語が進むため、映像も音声もサスペンス映画的なリアルタッチ。水彩画風に描かれる背景美術は、風光明媚なクレモナの美しい街並や古びているが雰囲気の豊かな建物をていねいに描いているし、監督でもある中澤一登のデザインによるキャラクターは、アニメ的なコミカルな描写をまじえつつも、表情の変化や視線の動きなどをリアルに描いており、本格的なミステリー作品として見応えのあるものになっている。

 最初の聴きどころは、謎の装甲車による暴走シーン(エピソード1:17分46秒)。「キラーB」に殺された犯罪者の兄弟が、復讐のために装甲車を奪って暴走をはじめるのだが、現れた「キラーB」に対峙するのは、彼らではなく謎の刺青の男だった。大きな黒い翼で空を自在に舞い、腕を剣に変形させて戦う「キラーB」と、刀を振るう刺青の男の戦いはまさに異能バトル。リズムを深く響かせるスリリングな音楽とともに展開するバトルに痺れる。刺青の男は何かの詩篇の言葉のようなものを詠みつつ、激しく戦う。超人的な戦いをリアルな音が彩っていくこの場面は、作品の大きな魅力だ。

 戦いは決着するが、事件の全貌はまったく見えない。捜査の結果は、犯罪者の暴走と「キラーB」によるものと思われる殺人、という今までに起きた事件と同様に片づけられてしまう。しかし、視聴者には犯罪者たちの影に刺青の男という謎の存在があり、彼らが「キラーB」を追うために事件を起こしていることが分かる。「キラーB」もまた、犯罪者を始末することで、自分の存在を示そうとしている。単なるサイコスリラーでない物語であることを予感させる幕開けだ。

 第2話と第3話で描かれるのは、チャリティーパーティーを舞台にしたテロ事件だ。パーティに集まった市長や富裕層の人々を人質にした大規模なものだが、犯人は幼稚な自己顕示欲の持ち主で、特別な思想や主張も持っていない。見ているものには、「キラーB」をおびき寄せるための事件と映るのだが、ここで登場するのはさきほどの刺青の男とは違うイザナミという男だ。花魁の着物姿でパーティに姿を現すなど、なかなか大胆なキャラクターなのだが、彼もまた顔に刺青を入れており、犯罪の影で暗躍する“刺青の男たち”は組織化されていることが分かる場面でもある。

 翼で飛翔する「キラーB」に対し、スケートボードで空中戦を挑むイザナミとのバトルは実にスピーディー。彼の呟く謎めいたセリフも印象的だが、「キラーB」と同じように足を剣に変形させて戦う姿を見せることで、謎の組織と「キラーB」の関係がまたひとつ明らかになる。このように、物語はその全貌が少しずつ明かされていき、それにともなって、まったく別の事件へと連なっていく形式をとっていく。連続する事件を追う捜査チームのサスペンスと、異形の者たちのバトルが複雑に絡み合ったストーリーは、序盤の物語だけでも魅力たっぷりで、見始めたら止まらなくなってしまう。

 全12話の物語は、毎週1話ずつじっくりと楽しみたいと思っていたのだが、ついつい一気に見てしまった。一気に見てしまうともったいない……とも感じるが、本作のようにストーリーが入り組んだ作品は、2度3度と繰り返し見るのも楽しいもの。最終話まで見た後だと、謎めいた詩篇の意味などもよく分かるので、初見とは大きく印象が変わってくるのだ。「B:THE BIGINING」は、上質なミステリー作品のように、繰り返し楽しみたくなる作品だと言える。定額の料金で見放題なNETFLIXだからこそできる楽しみ方とも言えるだろうか。

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