画像: Astell&Kern「ACRO L1000」はデスクトップオーディオの楽しみを凝縮した複合アンプだ。ヘッドホンで、イヤホンで、スピーカーで聴きまくれ!

 Astell&Kern(アステル&ケルン)の「ACRO L1000」は、デスクトップ・リスニングに特化したUSB DAC/ヘッドホンアンプ/プリメインアンプの複合モデル。たとえば同社AKシリーズなどのDAPを使ってポータブルオーディオを楽しんでいる人が、そろそろ自室に据置きのオーディオシステムを用意したいと思った時、最初のとっかかりになってくれそうな1台である。

 まず特徴的なのはその外観だ。デスクトップで使われることを考え抜いたデザインとサイズ感。もっとコンパクトなモデルはたくさんあるし、天面にボリュウムホイールがあしらわれたデザインもこれが初めてというわけではないが、ほどよい存在感と理にかなったアシンメトリー感は、AKシリーズに通じる。

画像: 電源ボタンとフィルタースイッチ、各種ヘッドホン端子は左側面にまとめられている

電源ボタンとフィルタースイッチ、各種ヘッドホン端子は左側面にまとめられている

画像: 右側面の円柱部にはパルテノン神殿の柱をモチーフとした意匠が取り入れられている

右側面の円柱部にはパルテノン神殿の柱をモチーフとした意匠が取り入れられている

 手前に30度傾斜したボリュウムホイールの付け根にはリング状のLEDがあしらわれ、側面にあるフィルタースイッチを押すごとに青(ニュートラル)→緑(バスブースト)→赤(ハイゲイン)と点灯色が変わる。ゲイン切替えは搭載されていないが、この「サウンドモード」で味つけ程度に音の変化を楽しむことができる。また、ホイールの周囲にある12個のLEDの点は音量を視覚的に示すもので、音量を上げるほど多くのLEDが水色に点灯する。

 DACチップは旭化成エレクトロニクス「AK4490」のデュアル構成で、これはAKシリーズで言えば1世代前のハイエンドモデルであるAK380と同等。384kHz/32bitまでのPCMファイルと11.2MHzまでのDSDファイルの再生に対応する。ヘッドホン/イヤホン端子は6.3mm3極アンバランス/3.5mm3極アンバランス/2.5mm4極バランス/XLRバランスの4系統を用意し、スピーカー出力は最大15W×2(4Ω)。12cm四方という、CDケース1枚分ほどの接地面積しかない筐体に、デスクトップオーディオの司令塔としての機能がぎっしりと盛り込まれているわけだ。

画像: リア部にはスピーカー端子とmicro USB端子、4ピンのXLRバランス端子およびスピーカーのON/OFFスイッチが装備されている

リア部にはスピーカー端子とmicro USB端子、4ピンのXLRバランス端子およびスピーカーのON/OFFスイッチが装備されている

出力機器の個性の違いをわかりやすく引き出してくれる

画像: フィットイヤーPrivate223をPWオーディオの2.5mm4極バランスのリケーブルと組み合わせて試聴

フィットイヤーPrivate223をPWオーディオの2.5mm4極バランスのリケーブルと組み合わせて試聴

 まず、MacBook AirとカスタムIEMのフィットイヤー「Private223」を組み合わせ、2.5mm4極バランス接続でハイレゾファイルを聴いてみた。コーネリアスのアルバム『Mellow Waves』から「未来の人へ」(96kHz/24ビット/FLAC)を再生してすぐに感じるのは、AKシリーズに通じるモニターライクで誇張のない音調であること。左右に振り分けられた音のピースが細かく的確に配置され、中心に据えられたヴォーカルの平熱感にもよけいな脚色をしない。同じくニュートラル志向であるPrivate223のキャラクターも相まって、どちらかと言えばやや硬質でクールな印象だ。

画像: ボリュウムホイールに30度の傾斜がつけられており、操作性も良好だ

ボリュウムホイールに30度の傾斜がつけられており、操作性も良好だ

 次にデノンのオーバーイヤーヘッドホン「AH-D7100」で同じ曲を聴いてみると、印象がガラっと変わる。音場感がとても豊かで、高域の再現が繊細なD7100の個性がしっかりと活かされているのだ。音像に厚みが加わったことで、ヴォーカルやギターのフレーズの熱量がやや増したようにも感じる。このあたりはイヤホン&ヘッドホン、あるいはリケーブルの個性の違いをわかりやすく引き出してくれるAKシリーズの魅力に通じるものがある。

画像: デノンのオーバーイヤーヘッドホン、AH-D7100と組み合わせて試聴すると、より音場感の豊かなサウンドを楽しむことができた

デノンのオーバーイヤーヘッドホン、AH-D7100と組み合わせて試聴すると、より音場感の豊かなサウンドを楽しむことができた

 ACRO L1000が気になっている方の一番の関心ごとは、やはりプリメインアンプとしてのパフォーマンスではないだろうか。最大15W×2(4Ω)という出力は、スペックだけ見るとそれほど余裕があるとは思えない。しかし結論から言うと、本機はデスクトップ使用として小型スピーカーと組み合わせる分にはまったく不足のない、質の高く濃密な音を聴かせてくれる。

 今回はイクリプスの中型フルレンジモデル、「TD508MK3」を机の上に左右幅80cmほどの間隔で内振り設置して聴いてみた。ACROシリーズから、デザインとカラーリングを揃えたスピーカー「<a href=” http://www.stereosound.co.jp/news/article/2018/03/15/66151.html” target=”_blank”> ACRO S1000</a>」も発売されているのだが、残念ながら試聴機のタイミングが合わなかった。

 これまでにもさまざまなアンプと組み合わせてTD508MK3を聴いてきたが、L1000とのマッチングは個人的にはトップレベル。音場はそれほど広いわけではなく、設置の仕方(スピーカー後方に壁面が近接しているなど)によっては低域がトゥーマッチになるものの、分離感を保ちつつキビキビと躍動するサウンドはとにかく聴いていて心地いい。その心地よさは音色や余韻の美しさというより、鳴るべき音が鳴るべきタイミングで鳴ることで生み出されるもの。つまり、イクリプスの目指す「正確な音」を、ストレートに体験させてくれるものだ。

 ちなみにACRO L1000は、USB OTGケーブル接続によりUSBオーディオ出力対応のDAPと組み合わせることができる。つまり、AKシリーズ第3世代以降のモデル(A&ultima SP1000/AK380/AK320/AK300/KANN/AK240/AK70MKII/AK70)であれば、本機のソース機器としてそれらを活用できるわけだ。たとえばシーラスロジックのCS4398というDACチップを搭載するAK70MKIIをL1000とUSB OTGケーブル接続すると、D/A変換はL1000に搭載されるAK4490で行なわれる。使い慣れたDAPをひと味違った音で楽しめるという意味でも、AKユーザーには興味深いモデルと言えるだろう。

画像: USB OTGケーブル接続により、USBオーディオ出力対応のDAPをソース機器として使うことができる。今回の取材ではA&ultima SP1000 SSを使って再生してみた

USB OTGケーブル接続により、USBオーディオ出力対応のDAPをソース機器として使うことができる。今回の取材ではA&ultima SP1000 SSを使って再生してみた

伊藤隆剛のおすすめ度【★★★★☆】

 日本でもスマートスピーカーの本格的普及が始まり、2本のスピーカーに対峙して音楽を聴くというスタイルが以前にも増して軽んじられるようになってきた(スマートスピーカーは確かに便利ですが……)。ACRO L1000は、そんな時代にも“個”として音楽と向き合いたいという人に、確かな聴き応えを与えてくれる製品だ。ポータブルオーディオ、そしてデスクトップオーディオのさらにその先の世界をチラ見させてくれるという意味でも、アステル&ケルンからこういった製品が出てきたインパクトは強い。

画像: 今回使用したスピーカーは、イクリプスTD508MK3。8cm口径フルレンジモデル。今回のACRO L1000とは相性ピッタリ。あまりに試聴が楽しくて、写真撮影を忘れてしまった……

今回使用したスピーカーは、イクリプスTD508MK3。8cm口径フルレンジモデル。今回のACRO L1000とは相性ピッタリ。あまりに試聴が楽しくて、写真撮影を忘れてしまった……

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